ニセモノ

 桜子の姿をした何者かが、飛び掛ってきた。


 その手には包丁が握られていた。


 それに気づいていた俺は、その何者かの手首を掴み、動きを止めていた。

 そのまま押さえ込もうとしたのだが、相手の力が強いのか、思うようにいかない。


「この腕力……お前も多重人格者か!」

「ご名答~」


 なんてこった、まさか桜子まで多重人格になっていた……いや、多重人格にさせられたとはな。


「(うーん、騒がしいな)」


 ドタバタ騒いでいたら、史郎が起きてきた。


「(え、あれ桜子!? 何で僕の家に!?)」


 史郎は驚いていた。寝起きで目の前に桜子の顔があれば、そりゃびっくりするわな。


「よお、史郎。さすがに眼が覚めたか」

「(く、クロちゃん!? ……まさか、クロちゃん。桜子と淫らな関係に……)」

「馬鹿言うな!」


 俺は叫ぶ、よく見ろ史郎、こいつの手に握られているのは包丁だぞ包丁。刃物を持った女と淫らな関係になんざなりたくもない。


「……伏せて」


 逢原の声に反応して、俺はしゃがんだ。


 その瞬間、ニセ桜子は吹き飛ばされた。

 逢原が華麗なドロップキックを決めたのだ。


「ヒュー。ずいぶんとバイオレンスだな、おい」

「……手加減はしてある」

「(ちょ、ちょっと逢原さん!? 何やってんの!? 大丈夫か、桜子!!)」

「史郎。いろいろあって説明が面倒だから、大事なことだけ言うぞ」


 俺は真剣な顔で、史郎に言う。


「あいつは小川桜子であって小川桜子じゃねえ」


 騒がしくしすぎたせいか、近所の家の電気がつき始める。


「おい、逢原! ここじゃマズイ。場所を変えるぞ!」

「……了解した」


 俺と逢原は走り出す。


「逃がさないわよー」


 偽者が不気味に立ち上がった。

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