1人称って大事

 ピンポーン、ピンポーン。


 逢原と俺は二人で玄関に向かった。


「……どちら様?」

「桜子だよー。ちょっと忘れ物しちゃってさー。ちょっと開けてくれる?」


 インターフォンが受信した声は、桜子のものだった。

 クール逢原は鍵を開け、扉を開けた。


「ゴメンねー、こんな遅くに。あれ、史郎っちも一緒なんだー」


 メガネを外しているから、今は俺だけどな。


「ああ、ちょっとな」

「ふーん、そっかー、一緒だったんだー」


 俺は何かおかしいと思った。こんな時間に桜子が来るのも十分妙な話だが、それとは別の、違和感を覚えた。


「……忘れ物とは?」

「アクセサリー、すごく小さな。説明が難しい特徴だから、できればあたしが直接探したいんだけど」

「……上がって」

「ちょっと待て」


 逢原がそいつを家の中に招き入れるのを、俺は制止させた。

 今の会話で、俺の違和感は確信なものへと進化した。


 俺は逢原を後ろに下げ、そいつの前に出る。


「お前は誰だ」


 俺の発言に、そいつは笑いながら答える。


「誰って、やだなクロやんー。あたしは――」

「下手な猿芝居はやめろ。本当の小川桜子の一人称は『私』だ。『あたし』じゃない」


 以前、史郎と入れ替わった時、桜子に一人称が違うと指摘されたことがある。だからこそ、気づけた。こいつは桜子じゃない。


「……」

「もう一度聞くぞ、お前は誰――」


 俺がそう言った、その瞬間だった。

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