夢だからと言って、何をしても良いわけではない

 僕はこの手紙を、逢原さんの下駄箱に入れるつもりだった。あの時と同じように。


 でも、あの時とは違った。僕の眼の前には……。


【逢原詩織】【逢原詩織】【青木芽衣子】――。


 僕の眼の前には、逢原詩織と書かれた靴箱が二つあった。


 僕は今朝のことを思い出した。二人の逢原さんは、同じ漢字の同じ名前だったということを。


 ここで問題だ。この二つの下駄箱、どっちがクールな逢原さんのもので、どっちがオドオド逢原さんの靴入れなのでしょうか? 右か左か、ライトかレフトか。どっちにする。


「(そうだ。靴の種類! 靴の種類が違えば……いや、ダメだ)」


 うちの高校、靴は指定で全生徒同じ物だった。これでは区別がつかない。


 どうする? 誰かに、手紙をクール逢原さんに渡すように頼むか? いやダメだ、中身を見られる可能性がある。

 下駄箱はやめて、机に入れるか? ダメだ、他のクラスメイトに怪しまれる。

 手紙を直接彼女に渡すか? でもそれは恥ずかしい。


 やっぱり、この二つの下駄箱のどちらかに入れるしかない。

 でも、どっちが正解なのか、判別する術が……。


「……いや、あるぞ。僕にしかできない、どっちが逢原さんの下駄箱か区別する方法が!」


 僕は、正解を導く、ある方法を思いついた。


 でもその方法は、あまりに非人道的かつ非道徳的で、たとえ夢でも許されない方法だ。


 やったら男として終わる。いや、人間として終わってしまう。


 でもこれしかない。


 今一度、周りに誰もいないことを確認する。よし、誰もいない、僕一人だけだ。

 僕は二つの下駄箱から、それぞれ片方ずつ、逢原さん達の靴を取り出す。


 そして、それらを……。


「スンスン」


 鼻孔に近づけた。


 そして、靴を元に戻し、正解であろう左の下駄箱に手紙を入れた。

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