番外編 夢中
夢中
人は誰しも夢を見る。
この場合の夢というのは、将来の夢ではなく、寝ている時に見る方の夢だ。
夢を体験している時、人はそれが夢だとは気づかない。どんなにありえない状況でも、それを当たり前と思ってしまう。自分の背中に羽が生えて空を飛んでも、下半身が魚の尾びれになってスイスイと泳いでいても、そんな非現実的な状況を、人は現実だと思ってしまう。
そして、人はそれが夢だと自覚した途端、夢から目を覚ます。
「……なんか変な夢を見たな」
僕は身体を伸ばしながら、さっきまで見ていた夢を思い出す。
夢の中で僕は、車とレースとしていた。車『で』レースではない。車『と』レースだ。車相手に、自分の足で競争する夢だ。
勝敗の行方は分からない。勝負がつく前に、目が覚めてしまったからだ。
僕は寝室のカーテンを開ける。朝日がまぶしい。名前の知らない小鳥が、鳴いている。
今見た夢を思い返して、僕はふと思った。
普通に考えれば、走る人間のスピードは、車には到底勝てない。勝負することすら、馬鹿馬鹿しい。
でも、僕には普通ではない存在がいる。人間離れした力を持つ、馬鹿げた存在がいる。
「(ねえ、クロちゃんクロちゃん。クロちゃんってさ、車よりも速く走れる?)」
僕は頭の中にいる、別の人格に話しかける。クロちゃんならサーキット用のスポーツカーは無理でも、乗用車の馬力には勝てるんじゃないかと思った。
しかし、クロちゃんから返事は無い。
まだ寝ているのかな、そう思った時だった。
「おい史郎! いつまで寝てんだ起きろー!!」
クロちゃんの声が聞こえてきた。
でも、聞こえてきたのは、脳内からではない。部屋の外から、クロちゃんの大きな声が聞こえてきた。
僕の寝室の扉がバタンっと勢いよく開き、廊下から驚きの人物か入室して来た。
「なんだ、もう起きてたのか。早く朝飯にしようぜ! 俺腹減っちまった!」
部屋に入ってきたのは、僕と同じ顔をしている、人間だった。
僕は彼の姿を見て、こう確信した。
あ、これは夢だ、と。
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