史郎の説得パート
「それじゃあ始めるよ」
「……分かった」
そう言いながら逢原さんは席を移動し、僕の隣に座った。
「え、ちょっと詩織っち!?」
その行動に、桜子が動揺する。僕の心も動揺する。
「……この方が耳によく響く」
逢原さんは僕の方に耳を傾ける。確かに、隣に座った方が声が届きやすいのだろうけど……。
僕は生唾を飲む。
こんなに逢原さんが近くにいるなんて……。あ、逢原さんの耳、すごい綺麗。
「(言ってる場合かよ)」
クロちゃんにツッコまれる。分かっている、ふざけている場合じゃないことは。でも、こればかりは仕方ない。好きな子がこんなに近くにいるんだから。僕の心拍数はどんどん上昇する。
「……始めて」
「う、うん」
逢原さんに催促される。僕は深呼吸して、気持ちを落ち着ける。スー、ハー、スー、ハー。……よし。
「もう一人の逢原さん。聞こえる? えっと、なんというか、コホン。自殺なんて馬鹿なことは止めた方がいい」
「……」
当たり前だけど、主人格の逢原さんから返事はない。
相手の反応が分からないと、ちょっと困る。本当に僕の言葉は聞こえているのだろうか。
「……大丈夫、主人格は起きている。あなたの声はちゃんと届いている」
僕の不安な気持ちを察したのか、逢原さんが言う。ちょっと安心した。
僕は話を続ける。
「もう一人の逢原さん。逢原さんから聞いたよ、火事で両親を亡くしたって。実は僕もなんだ。小さい頃に、交通事故でお父さんとお母さんを亡くしている」
多分、もう一人の、主人格の逢原さんは、同じなんだ。小さい頃の僕と同じ。
だから救わなくちゃいけない。彼女を、僕の手で、声で。
「僕もね、最初は悲しくて泣いたんだ。そりゃ、もう毎日。死んじゃおうかなって思った時もあったよ」
「史郎っち……」
桜子が哀しそうな視線で僕を見る。大丈夫心配するな、僕はもう吹っ切れているから。
「でも、ね……そんな時にクロちゃんに会ったんだ。ギャーギャー泣いている僕に、クロちゃん最初に何て言ったと思う?」
「……」
クロちゃんから僕への第一声は、「大丈夫か」「安心しろ」とか、そんな優しいものではなかった。 彼が初めて僕言った言葉は――。
「『うるせえ、クソガキが!』だよ? 幼い子供に向かって、酷いと思わない?」
これは今でも酷いと思う。第一印象は大事と言うが、クロちゃんの第一印象は最悪なものだった。
「(そんなこともあったけな)」
クロちゃんが昔を懐かしむ。
「最初は怖かったよ。お化けが出たと思ったくらいだもの。でもね、秘密の友達ができたみたいで嬉しかったんだ」
僕は昔の気持ちを思い出しながら言う。
「クロちゃんと話すうちに、自殺する気なんて無くなったよ。クロちゃんと話す毎日が楽しかったからね」
そう。今僕が生きているのは……前向きでいられるのは、クロちゃんのおかげだ。あの時、クロちゃんが現れなかったら、悲しみに心を支配され主人格逢原さんのように自殺して、僕はこの世にはいないだろう。
「……少し待って」
逢原さんが話を止める。
なんだろう。
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