表の逢原詩織
「……主人格が話したがっている、あなたと。いい?」
自分の胸に手を当てながら、逢原さんが聞いてくる。
「もう一人の逢原さんが……? 分かった、お願い」
僕がそういうと、逢原さんは瞬きを三回する。
しばらくすると瞼を開いた。 開いた瞬間、逢原さんはオドオドしながら、少し僕と距離を取る。
僕は一目で分かった。これは僕達の知っている逢原さんではないと。
「あの、紅君」
確信に変わった、これはもう一人の逢原さんだ。クール逢原さんは僕のことを『あなた』と呼ぶ。紅君とは呼ばない。それに普段の逢原さんはこんなにオドオドしない、とてもクールビューティな女の子だ。
オドオド逢原さんが、恐る恐る僕に聞いてくる。
「君は寂しくないの? お父さんとお母さんがいないんだよ?」
もちろん、寂しくないと言ったら嘘になる。当たり前だ、大切な人がいないのだから。寂しいことこの上ない。
「そりゃあ両親がいなくなったのは悲しいよ、今でも心苦しいことだってある。でもクロちゃんがいるから……いや、クロちゃんだけじゃない。逢原さんや桜子もいる」
僕は少し間を空けて、強く言い放つ。
「だから寂しくないよ」
クロちゃんと逢原さんと桜子がいるから、今の日常が楽しいのだ。三人で新聞を作ったり、宿題を見せ合いっこしたり、駄弁ったり。そんな何気ない日常の一コマが、とても楽しい。
両親が死んだ悲しみを乗り越えれるくらい、とっても毎日が輝いている。
「もう一人の逢原さん」
僕は彼女の手を取る。
「君に必要なのは自殺による一時しのぎの満足感じゃない。友達だ。君にだって、凄い近くにいるでしょ。いつだって、身を挺して君を守っていた、友達が」
僕は説得を続ける。
「僕と逢原さんは友達だ。なら、君も友達だ。だから自殺なんてやめて。友達が死んだら、悲しいよ」
「わ、私だって!」
桜子が話に割って入ってくる。
「私だって詩織っちの友達だよ! だから、あなたとだって友達になれる! ううん、絶対になる!」
桜子は強く宣言する、僕も桜子と同じ気持ちだ。絶対に仲良くなってみせる。
「(まあ俺も話し相手にはなってやるよ。同じ二重人格者のよしみだ)」
「クロちゃんも、君と友達になってくれるって!」
僕はクロちゃんの言葉を伝える。
「ありがとう……ありがとう」
もう一人の逢原さんは泣いていた。十数年分の悲しみを洗い流すかのように、彼女の目からポロポロと流れ落ちていた。
彼女は寂しかっただけなんだ。ただそれだけだった。
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