同じ境遇の者として
今までの逢原さんの話を聞いて、僕はやりたいこと……しなくちゃいけないことができた。
「逢原さんの別人格と話がしたいんだ」
僕の発言に初めに驚いたのは、逢原さんではなく桜子の方だった。
「ちょ、ちょっと史郎っち! ちゃんと聞いてたの!? もう一人の詩織っちは何をするのか分からないんだよ!」
「……彼女の言うとおり。主人格はとても危険な状態。入れ替わるのは推奨できない」
それは分かっている。今、表の逢原さんに代わることは危険極まりない。もしかしたら、この場で舌を噛み切ったり、ハサミで自分の胸を刺したりするかもしれない。
それなのに彼女に入れ替わりを提案するのは、周りから見れば愚かなことなのだろう。でも、話さずにはいられない。同じ多重人格者として、同じく両親を亡くして絶望した者として。表の逢原さんと話をしなければならない。
「(史郎、お前……)」
「大丈夫、絶対に自殺なんてさせない!」
僕は強く宣言をする。
「それにいざとなったら、クロちゃんに取り押さえてもらう」
「(任せろ! またヘッドバットで気絶させてやる!)」
頼もしい返事が返ってきた。
「……あなたの気持ちは分かった。だが、やはり入れ替わることはできない」
逢原さんの気持ちは変わらなかった。今、主人格の逢原さんの精神状態は不安定で、今入れ替わるのは非常に危険だと。もしかしたら自害だけで終わらず、僕や桜子に危害を加える可能性もあると、逢原さんは言う。
「そんな……」
僕はがっかりする。
がっかりする僕に、逢原さんが言う。
「……話を最後まで聞いて。私と主人格は貴方達と同じように、五感を共有している。私の聴覚を通して、主人格に伝える」
そっか。その手があったか。主人格と別人格は感覚を共有している。僕とクロちゃんがそうであるように、逢原さん達もそうだ。だからクール逢原さんに言った発言は、主人格の逢原さんにも聞こえる。
良かった、逢原さんにヘッドバットしなくて済んで。僕は安堵する。
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