ヒーローの正体

 だが、不良達の反応は僕の予想と全く違った。


「ひぃいっ!」


 僕の方を見て、不良達は情けない悲鳴を上げる。まるで天敵が目の前に現れて、驚き喚く虫の大群のように、騒ぎ出す。

 そして尻尾を巻きながらそそくさと廃ビルの外へ逃げていった。辺りを見回すがこのフロアに僕達以外誰もいなくなる。


「ふぅ、もう大丈夫だぞ桜子」


 僕は桜子に物陰から出てくるように言う。


「う、うん」


 物陰からそろーりと桜子が出てくる。


「大丈夫だって、もうこの辺に不良はいないから」

「そうみたいだね。でもどうして、急に逃げたんだろう……?」

「僕を幽霊か何かと勘違いしたんじゃないのかな」


 僕はそう言う。でも真実は違う。僕は気づいていた。不良達がどうして逃げたのか。


「(クロちゃん! ちょっとクロちゃん!)」

「(ん……なんだよ、史郎)」


 僕はクロちゃんを起こす。少し怒った物言いで。


「(クロちゃん。正直に言って。僕が寝ている間……メガネを外して寝ている間に何かしているでしょ?)」

「(げっ! なんで知ってんだ!?)」


 やっぱり。僕はため息をつく。


 桜子が見つけてきた事件の一つ、不良退治をしているヒーローの正体はクロちゃんだったのだ。

 僕が寝ている間に、不良達と喧嘩をしていたのだろう。


 クロちゃんの身体能力は並外れている。その拳は空を裂き、その蹴りはコンクリートブロックを砕くほどの威力だ。もちろん力だけではなく瞬発力、スピードも並外れている。だから相手が十人でも二十人でも関係ないのだ。むしろ、相手が重症を負っていないか心配になる。


 夕方からずっと寝ていたのも、僕が寝ている間に起きて夜の町を徘徊していたから、寝不足になっていたのだろう。


「(わ、わりぃ史郎! 俺、自分で自由に動けるようになれたのが嬉しくってつい……)」


 まあ、クロちゃんの気持ちも分からなくはない。

 今まで十数年間、身体を全く動かせなかったのに、急に自由に動けるようになって、僕には想像もつかないくらいに、とても嬉しかったのだろう。多分、新しいオモチャを与えられた子供みたくはしゃいだに違いない。


「(まったく……もうこんなことは無しにしてよ? それにこんな泥棒みたいなことしなくても、言ってくれれば身体貸すから)」

「(ほ、本当か! 分かった、もう絶対しねえ!)」


 クロちゃんは喜ぶ。本当に反省しているのか、ちょっと不安だけど、クロちゃんを信じることにする。


 僕は桜子に話しかける。


「それで、どうするんだ? このまま調査を続けるのか?」

「うーん……」


 桜子は悩む。


「今日はもうやめよっか。もしかしたら上の階にまだ不良がいるかもしれないし」


 桜子の意見に僕は賛同した。いくらクロちゃんがいるとはいえ、自分から厄介ごとにかかわる必要はない。


「(ちっ、暴れられるチャンスが……)」

「(クロちゃん……)」


 やっぱり反省してないのかもしれない。罰としてしばらく肉料理は無しにしようかなと考えていたら、クロちゃんは即座に「すみませんでした」と頭を下げてきた。全く、現金なやつだ。

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