幽霊の正体枯れ尾花

 結論から言うと、音の正体は呆気ないものだった。正直幽霊だったら、ここに来た甲斐があると期待していたのだが、音の主はとても期待はずれなものだった。


 正体は不良達の話声だった。どうやらこのビルを溜まり場にしているらしい。四、五人くらいいる。アルコールの匂いが漂っているから、おそらく酒を飲んでいるのだろう。未成年の飲酒はダメですよー。僕は心の中で彼らに注意をする。もっとも、彼らが未成年か成人かは分からないが。


「面倒ごとに巻き込まれる前に帰るぞ」

「う、うん」


 不良に絡まれて良いことなんてあるわけがない。それは桜子も同意見のようだ。怖いものに飛び込む彼女でも、不良の溜まり場に飛び込むことはしないらしい。僕達は不良達に悟られないように最善の注意を払いながら。物音を立てずにその場を去ろうと――。


 ガラっ!


 現実はそう甘くなかった。

 桜子がガレキの破片を蹴ってしまったのだ。その音がビル内に響き渡る。


「誰だ!」


 いくら酒を飲んでいるとはいえ、物音に気づかないほど不良達は鈍感ではなかったらしい。いかつい声を僕らの方に発してくる。


「出てきやがれ!」


 不良達は僕達に姿を現すように言う。


 さて、どうしたものか。


「桜子。ここは俺に任せて、お前は隠れていろ」


 僕は小声で桜子に話す。

 それを聞いた桜子がびっくりした顔を僕に向ける。


「で、でも……」


 桜子は戸惑う。僕を犠牲にして自分一人だけ逃げるなんてできない。口では言わないが彼女の表情がそう物語っていた。

 そんな彼女を安心させるように、僕は言う。


「心配するな。いいか、絶対に声を出すんじゃないぞ」


 僕はそう言い残し、桜子を置いて不良達のいる方に飛び出た。


「あ、あはは。どうもこんばんは」


 愛想笑いをしながら、不良達に話しかける。


 正直言うと、怖かった。殴られたら嫌だな、カツアゲされたらどうしよう。そんなことばかり考えていた。


 でも、いざとなったら、こっちには切り札がある。さっきからいびきをかいている切り札が。

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