探索

 中はなんてことのない普通の廃ビルだった。元々オフィスビルだったらしいが、事務用品などは一つも置いていない。ところどころにガレキが散らばっている。埃とカビ臭い匂いが鼻を刺激する。


「な、なんか出そうだね」


 震える声で桜子が廃ビルの感想を述べる。


「出てくれるのを望んでるじゃないの?」

「あ、あははそうだね」


 桜子はぎゅっと僕の腕を掴みながら歩く。よっぽど怖いのか、桜子の掴む力は強く、腕が少し痛くなる。


「おい、歩きにくいだろう」

「そ、そんなこと言わないでよー」


 桜子が情けない声を出す。まったく仕方ない。僕は腕の痛みを我慢することにした。


「(これが逢原さんだったらな)」


 そんなことを妄想してみる。

 逢原さんって怖いもの知らずで、何ものにも動じないイメージだからな。この前もいかつい大人の男にも屈していなかったし。

 でも、もし逢原さんがオバケ苦手だったら、それはそれで可愛い。彼女が今の桜子のようにブルブル震えたならば、僕は悶絶してしまうだろう。


「……史郎っち、詩織っちのこと考えてるでしょ?」


 図星を突かれ、僕はギクっと反応する。


「え、なんで分かるの?」

「鼻の下、伸びてる」


 僕は慌てて、手で顔を覆う。僕って顔に出るタイプなのかな。頬を叩いて、僕は普通の顔に戻る。


「まったく……」


 桜子は呆れながら、僕を氷柱のように冷たい視線で見る。そんな目で見るなよ、良いじゃないか、好きな子とこういう心霊スポットを巡る妄想したって。


 そんななか、奥のほうから物音が聞こえた。


「しっ! ……何か聞こえるぞ?」


 僕は人差し指を唇につけて、桜子に静かにするように指示する。ちなみに物音というのは、クロちゃんのいびきとかではない。

 桜子も口を手で覆い、声が漏れないようにする。


 聞き違いじゃない。やっぱり、何か音がする。


「行ってみるぞ」

「う、うん」


 僕達は音のする方へと向かった。

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