筒六ルート6話 見えた一面

昨日と同じ要領で昼食を済ませ、昼休みに仲野がいるであろう中庭へ到着したが――

「おかしいな、いつもはここにいるはずなんだけど……」

いつもはと言っても、毎日仲野がここで食べているのを見ているわけじゃないが……。

「今日はどこか別の場所で……ん?」

「…………」

仲野がいた……。しかし、校舎へ寄り添うように歩いている。なにやってんだ?スカートを押さえて、やたらと周りを気にしてるし、そわそわしてるし、こそこそしてるし……。

「…………」

どうやら俺には気づいてないようだ。よーし、いつも仲野にヒヤッとさせられてるから、今日は俺のターンだ。

「よっ! 仲野!」

背後から仲野の肩にタッチして呼びかける。

「うひゃあっ!」

「そんなに驚かなくても」

仲野はバッと、俺の方を振り返る。

「せ、せせ先輩!? なにするんですか!?」

「いや、呼びかけただけなんだけど……てか、そんな声出るんだな」

「う、うるさいです! このヘンパイ!」

「それはもしや、変態と先輩を混同させてるのか?」

「そんなことはなんとでもいいから、どこかへのけておいてくれださい!」

「どこの宇宙語だ?」

「と、とにかく、私に構わないでください!」

「あ、おい!」

逃げた、しかも超走りづらそうな感じで。なにがどうなってんだ?

「待てよ、仲野!」

「うわああ! 来ないでください!」

「なんでだよ?」

「なんでもいいからです!」

「ますます気になるだろ」

「気にしなくていいんですって!」

くっ、なんて速さだ……! 見た目はすごく走りづらそうなのに、俺よりも速いぞ。だが、そんな変な体勢だと相当体力を持ってかれるはずだ。そこが狙い目だぜ。

「来ないでくださーい!」

追いかけっこをして数分、気づくと俺たちは人のいない校舎裏へ来ていた。

「はあ、はあ、はあ……」

「はあ、はあ……やっと追いついたぞ」

「はあ、はあ、なんで来るんですか……」

「はあ、仲野が逃げるからだ」

「はあ、鷲宮先輩が追いかけてくるからじゃないですか」

「理由を教えてくれって」

「ちょっ、来ないでくださいって!」

後退る仲野に一歩一歩迫っていく。これじゃ暴漢みたいだが、それは違うと自分に言い聞かせる。

「だから、なんで――」

「え、ちょっと、わあああ!?」

「な、仲野!?」

仲野はつまづき、尻餅をつく。

「い、たたたた……」

「大丈夫か、なか……の?」

仲野は転んだ拍子にスカートがめくれ、開脚していた。

「は、はい……。小石でも踏んじゃったんでしょうか……」

「そ、そうじゃねえかな……」

開脚した中心から見えているのは、布地のパンツでも、化学繊維のスク水でもなかった。

「もう、鷲宮先輩がにじり寄ってくるからですよ?」

「す、すまん……」

そこにあるのは、初めて見る肌色の割れ目。

「あいたた……お尻痛いなあ……」

「あ、あのよ、仲野……?」

「どうしました?」

「先に断っておくが、これは故意じゃねえからな?」

「なにがです?」

「つまりだな……仲野よ」

「はい?」

「自分の体で、どこか通気性の良いところないか?」

「通気性の――はっ!」

仲野は自らの股間を見下ろし、目を見開き、顔を真っ赤にして、うろたえている。

「あ、あ……な……」

「いやー、なんというかその……」

「く、うう……う……」

「どう言えばいいのかな……」

「うう……うああ……」

「随分、個性的な下着をお召しで――」

「!?」

俺の言葉で仲野は我に返り、足を閉じて、スカートを手で押さえる。

「いやー、目のやり場に困るなー」

「……見ましたね?」

仲野はキリッとさせながらも、ジトーっとした目つきで俺を見上げてくる。

「えーっと……」

「……見ましたね?」

「それはその……」

「鷲宮先輩……」

「なんでありましょう?」

「こういうときは正直になったほうが身の為ですよ?」

「待てって! だから、俺は先に言っただろ? 故意じゃないって」

「そこは問題じゃありません。見たか見てないか、それが重要なんです」

「あー、その点に関しては……」

「いや、もうこの際だから、見てなくてもダメです」

「はあ!? 滅茶苦茶だろ!?」

「全ては私に尻餅をつかせた鷲宮先輩が悪いんです」

「その前に仲野が逃げなければ済む話だろ」

「鷲宮先輩が追いかけてくるからです」

「それは――って、話がループしてる。とにかく、俺はな――」

「鷲宮先輩」

「なんだ?」

「この場合、客観的に見てどちらに非があるように見えますか?」

「それはもちろん――」

「鷲宮先輩、よく私の言葉を聞いてください。どちらに非が”あるように”見えますか?」

「う……」

そうだ、ここで大事なのはどっちが悪いということではなく、どっちが悪そうに見えるかだ。それなら、答えは一目瞭然。

「……ずみ゛ま゛ぜん゛」

俺は涙声でそう答えた。

「わかればいいんです」

ぐぬぬ……納得いかねえ……。

「じゃあ改めて聞くが、なぜその状態なのか教えてくれ」

「これ以上、私を辱めてどうする気ですか?」

「どうもしないが、さすがに気になる」

「……エッチな先輩です」

「ならなにか? 仲野はそういうプレイを1人でするモノ好きという認識でもいいってのか?」

「や、やはり……エッチな先輩です」

「どうなんだ?」

「仕方ありませんね……。潔く非を認めた鷲宮先輩に免じて、お答えしましょう」

認めてねえっての。

「おう」

「……昼休みに練習してたんです」

「水泳か?」

「はい」

「部活は放課後だろ? 熱心だな?」

「それは……別にいいじゃないですか……」

「そうだな。それで?」

「後は……なんとなくわかりませんか?」

「なにを?」

一度、肌色に戻っていた顔が、また少し赤くなる。

「今の状態になってしまったことです」

「いや、わからんけど?」

「うう……こんなときに鷲宮先輩の固有能力である”鈍感”を発揮しなくてもいいんです」

「俺、そんな固有能力持ってたのか……。じゃなくて、マジでわからんのだが?」

「要は……履き忘れたんです」

「な、なるほど……」

「ああもう……!」

相当恥ずかしかったのか、今まで見たことないぐらい顔が赤い。

「その……すまん」

「……もっと謝ってください」

「申し訳ございませんでした。なんだったら、土下座もするぞ?」

「!? ……やはり変態です」

「なんで土下座で変態なんだ」

「土下座と称した覗きを敢行する気でしょう」

なんていうか、そこまで思考を張り巡らせてる仲野のほうが変態なんじゃないか?

「わかった。やめておく」

「油断も隙もないです」

「しかし、珍しいな?」

「なにがですか?」

「仲野、しっかりしてそうなのに、そんなミスするなんて」

「い、いつもの感覚でついやってしまっただけです」

「いつもの感覚?」

「普段、昼休みに練習しないので、水着を着たままなんです」

「ん? てことは、登校してくるときから、すでに着用してるってことか?」

「はい」

見くびっていた……。仲野はマジな水泳バカだったんだ。これ褒め言葉だからと無意味に自分へ言い聞かせる。

「でも、練習したらスク水が濡れるので、部活が終わってから下着を履くようにしているんです」

「まあそうなるな」

「それで、さっき練習したときにどうせだからと着替え一式を部室に置いてきたんです」

「要するにパンツもスク水も部室に置いてきたけど、いつもの習慣でパンツを履きそこねたってことか?」

「ダイレクトすぎますが、そういうことです」

「それで部室に戻ってたってわけか」

「……はい」

「いつもの習慣とはいえ、仲野らしからぬミスだな」

「……それだけではないですけど」

「他にもなにか?」

「いえ、なんでもありません。それより、もういいですか? そろそろ、この状態から脱したいんですが」

「ああ、いいぞ」

「よいっしょ……」

仲野は細心の注意と土埃を払い、立ち上がる。

「私は行きますが、覗かないでくださいよ?」

「わかってるって。また転ばないように気をつけろよ?」

「鷲宮先輩に言われなくても、わかってます」

仲野はもじもじしつつも、早歩きで去っていった。

「あの仲野があんな表情するなんてな」

あの状態の仲野も、それになった理由も、なんとも仲野らしからぬ。俺が知らないだけで、実は意外とドジだったりするのか? なんにせよ、仲野の新しい一面が見れてちょっと満足かも。今日のところはそっとしておいて、明日また改めて接するとしよう。


「お、今日の飯は美味いな?」

いつものように紗智と夕飯を食べている最中、俺は無意識にそんなことを言う。

「その言い方だと、普段は美味しくないみたいじゃない」

「そんなことねえよ? いつも美味しいぞ?」

「なんか今日の誠ちゃん……変」

「なんだよー、褒めてやってんのに」

「昼休みどこか行ったと思ったら、妙に浮かれてさ。なにかあったの?」

「ん? とくにはないぞ?」

「聞いてもこれだし。とにかくそれやめて。なんか気持ち悪いから」

俺、そんなにおかしい? 昼休み、仲野の新しい一面が見れてそんなに嬉しかったのか。だとしたら、確かに気持ち悪いな。元通りになるため意識しておこう。

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