筒六ルート4話 意味深

「えー、今日は学園祭お疲れさんでした。明日は振替休日だが、学園祭の余韻に浸りすぎず、問題は起こさないこと」

そっか、明日は休日だったな。

「明後日からまた通常どおり授業が始まる。今後は大きな学園行事もない。お前たちも来年は3年生になる。今のうちにきちんと自分を見つめ直して、将来のことを考えるように」

なんだか、あっという間の1日だったな。

「では、以上でHRを終わる」

築島先生の言葉でぞろぞろと教室から出て行くクラスメイトたち。全員、その顔には笑みが浮かび、今日の出来事を振り返っている様子だった。みんな、学園祭楽しんだんだろうな。

「私たちも帰りましょう」

「誠ちゃん、帰るよ?」

「ああ」


当然、俺たちも下校しながら出る話題は、今日の学園祭での出来事だ。

「学園祭、楽しかったですね」

「うん、麻衣ちゃんと一緒だったからすごく楽しかった」

「ふふ、私もです」

「そういや、鈴下のクラスのお化け屋敷には行ったのか?」

「う、それは……」

「はい、もちろん行きましたよ」

「へえ、あの紗智がよく行ったな?」

昔からホラーは苦手だったはずだが。

「うう……思い出したくないよお……」

「三原は平気そうだな?」

「はい。仕掛けが凝っていて、とても手作りとは思えませんでした」

「うう……もう置いてけぼりはやだよ~……」

「す、すみません」

どうやら、紗智はお化け屋敷内で1人取り残されたらしい。

「三原もそういうのは弄るんだな?」

「わざとじゃありませんよ……」

「なら、なんでだ?」

「私、楽しくてつい……先へ先へと1人で進んでしまって……」

「暗かったよ~……怖かったよ~……」

紗智は両手で二の腕を抑えながら、震えている。

「ごめんなさい、紗智さん……」

「ほら、三原も謝ってんだから許してやれよ」

「うん、だからね、明日一緒にお出かけするの」

「お出かけ? 三原とか?」

「はい、明日は振替休日ですから、お出かけする約束をしたんです」

「なになに? 誠ちゃんも来たいの?」

「遠慮しとく。休日はゆっくり過ごしたい身分なのでな」

「そうですか。鷲宮さんもご一緒なら、楽しいと思ったのですが」

「いいよいいよ。誠ちゃんは放っておいて、2人で楽しもう」

「はい。――それでは、私はこちらなので」

「また明日ね、麻衣ちゃん」

「じゃあな」

「ごきげんよう」


三原と別れた後、紗智はいつものように俺の家へ夕食作りに来て、2人でそれを頂く。

「で? 誠ちゃんの学園祭はどうだったの?」

紗智は口に含んだ夕食のおかずを飲み込んで、そんなことを聞いてきた。

「んー……ソースとイカ焼きとリボンかな」

「なに言ってんの?」

「お前が聞いてきたんだろ」

「そうだけど、わけわかんないよ」

「別にわからんでいいよ。説明するのも面倒だし」

「むー……ならさ」

「ん?」

「楽しかった?」

「…………」

「それぐらいは教えてくれてもいいでしょ?」

「そうだな……楽しかったかな」

「そ……よかった。ご飯食べたら、そのままにしておいていいよ。私が片付けておくから」

「わかった。あ、そうだ」

「なに?」

「明日は俺のこと気にしなくていいから、三原と楽しんでこい」

「え……でも、朝ごはんとか――」

「そんなの用意してたら、遅刻するかもしれないぞ? それにどうせ俺のことだから、昼まで寝てるかもしれないしさ」

「うん、わかった。じゃあ、明日は自分で頑張ってね」

「紗智も明日は三原と楽しんでこいよ?」

「うん、ありがとう」

「……ごちそうさま。後、頼むな?」

「うん、任せといて」

紗智は洗い物が終わると、早々に自宅へ帰っていき、俺は風呂を済ませて、自室でくつろいでいた。

「…………」

紗智は明日、三原とお出かけか……。俺は……どうしようかな……。とくになにか用事があるわけでもないし、家でごろごろ過ごすのが無難か。時間の浪費この上ないが、用事が出来たら出来たでそのときに行動すればいいや。

「寝るか……」


翌日、有言実行のもと昼に起床し、やることもないから、リビングに置いてあった食パンをかじりながらゲームに興じていた。

「……飽きてきたな」

プレイ中だったゲーム機の電源を切り、バーチャル世界から回帰する。

「暇だ……」

こうもやることがないと、部活の1つでもしといたほうがよかったのかなと思ってしまう。部活と言えば、仲野は今日も部活か?

「…………」

なんだか、昨日のこともあって妙に会いたくなって来た。

「ちょっと様子見に行ってくるか」

俺は制服に着替えて、学園へ向かった。


「仲野はプールかな?」

「鷲宮先輩?」

「うわっ――な、仲野?」

まさか校門で会うことになるとは――

「驚いたのは私のほうです。なぜ学園に?」

「あ、その、えっとだな……」

仲野に会うためって言って気持ち悪がられるのは避けたいが、とくに理由を考えてきてなかったからどうしよ。

「あ、わかりました」

「なにがだ?」

「鷲宮先輩のことだから、補習だったのでは?」

「え?」

「あれ? 違うんですか? 制服だから、そう思ったのですが」

「お、おお、そうだぞ。この前、宿題忘れちゃって、その罰だ」

さすがに私服で学園に行くのはどうかと思い、制服に着替えてきてよかった。

「やはりそうですか。ドジな鷲宮先輩なら可能性大だと思いました」

「ドジは余計だ。仲野は部活じゃないのか?」

「はい、先ほど終わりました」

「そっか、お疲れ」

「それでは、私は帰ります」

「仲野」

「はい?」

「仲野は今からなにか用事でもあるのか?」

「用事というほどではありませんが、夕食の買出しがあります」

「そうか……」

せっかく仲野に会えたけど、邪魔するのも悪いし、おとなしく帰ろうかな。

「どうかしました?」

「いや、なんでもない。俺も帰るわ」

「……鷲宮先輩」

「なんだ?」

「もしかして、暇なんですか?」

「まあ、そんなところだ」

「そうですか。では、買い物に付き合ってもらえませんか?」

「いいのか?」

「ただし、条件があります」

「条件?」

「荷物持ちです」

「お安い御用だ」

「交渉成立ですね。行きましょう」

「ああ」

思わぬ形だったけど、仲野と一緒にいれるのなら理由はなんだっていい。

「よかったですね、鷲宮先輩?」

「なにがだ?」

「私のような美少女が暇つぶしの相手なんですから」

「自分で美少女って言うのかよ」

「もちろん、冗談です。しかし――」

「しかし?」

「鷲宮先輩の目には、私は美少女に見えないでしょうか?」

「そんなことねえよ。俺から見たら、仲野は十分可愛いぞ」

「ならば、よしです」

仲野はそう言いながら、自分の前髪を撫でる。

「てか、暇つぶしじゃねえっての」

「違うんですか? 暇そうに見えましたけど?」

「暇をつぶすために、仲野と一緒にいるわけじゃねえって意味」

「では、なぜ荷物持ちまでして、買い物に付き合ってくれるんですか?」

「それは……」

「それは?」

「なんとなーく、仲野と一緒にいたいなって思ったからだ」

「なんだか微妙な感覚ですね。もっとこう……君との時間を共有したいからとか、そんな言葉は出てこないんですか?」

「そんなアホっぽいこと言えるかよ」

「そうですね、私もそんなこと言う人とは一緒にいたくないです」

「なら、そんな例を出すな」

「でも、鷲宮先輩のセリフが微妙なのは確かです」

「う……すまん」

「そこが鷲宮先輩らしくもあって、嫌いではありません」

「そ、そうか? そう言ってくれたら助かるよ」

「ですが、次はもっと上手い具合に表現してください」

「……努力します」

自分で言っておいてなんだが、けっこう失礼な物言いだったかも……次から気を付けないと。


商店街に着いたはいいが、俺はまだ仲野がなにを買うのか聞いていなかった。

「それで? なにを買うんだ?」

「今日の夕食はカレーなので、その材料を買います」

「カレーか。なら、野菜から買いに行くか」

「はい」

一通り、食材を買い終えた頃には、日が傾き始めていた。

「これで全部です」

「そ、そうか……ぐぎぎ……」

「大丈夫ですか、鷲宮先輩?」

「あ、ああ……なんとかな」

カレーの材料だけなのに、量が多い。このままだと、両手が痺れる。

「鷲宮先輩」

「なんだ?」

「少し休憩していきますか?」

「俺は嬉しいが、時間は大丈夫なのか?」

「あまり長くはできませんが、大丈夫です」

「そうか。そうしてもらえると助かる」

「では、うちまでの通り道なので公園で休みましょう。そこまでは頑張ってください」

「りょ、了解した」

なんとか持ちこたえてくれよ……俺の両手。


公園の高台までなんとか持ちこたえた俺は大きくため息をつく。

「くひー……疲れた……」

ベンチに荷物を置き、自分も盛大にベンチへ腰掛ける。

「頑張りましたね。途中ギブアップすると思いました」

「はあ、はあ、荷物持ちの役割を任せられたからな。約束は守るさ」

「鷲宮先輩って、漫画の主人公みたいですね?」

「なぜだ?」

「根性と忍耐力があるので」

「そうか? もうバテバテなんだけどな。仲野は漫画、読むのか?」

「あまり読みませんが、弟が持ってるものをせがまれて、少しだけ読んだことがあります」

「あ、それでか」

「どうしました?」

「買った材料がやけに多いと思ったら、兄妹が多いんだったことを思い出した」

「そうですね。育ち盛りなのか、弟2人はとくにたくさん食べますよ。量が量なので作るのも一苦労です」

「へえ、料理も仲野がするんだな?」

「母が夜まで帰ってこないので、自然とそうなりました」

「仲野は偉いな」

「そうですか?」

「そうだよ。飯の買出しして、料理もして、兄妹の面倒もみて、部活もちゃんとして、俺には到底マネできないな」

「別に偉くないです。私はただ目の前のことをこなしているだけですから」

「それに取り組んでるってだけでもすごいけど、仲野はちゃんとやれてるじゃん」

「…………」

「けっこう前から水泳やってるって言ってたから、実力もあるんだろ?」

「賞を取ったことはあります」

「やっぱすげえな。才能あるんだろうな」

「……そんなことありません」

「謙遜なんて仲野らしくないな」

「別にそういうわけでは……」

「最近、水泳の調子はどうだ?」

「…………」

「仲野?」

「普通です」

「それにしてはテンション低いな?」

「勘違いです。気にしないでください」

「わかった」

「私、そろそろ行きますね。付き合っていただいてありがとうございました」

仲野が荷物に手をかけたのを見て、俺も立ち上がる。

「家まで荷物運ぶぞ?」

「鷲宮先輩、そこまでして私の家の住所を知りたいんですか?」

「そうじゃねえよ。重いし、荷物持ちの約束してただろ?」

「ここから近いので、もう平気です」

俺がヒーヒー言いながら持った荷物を、軽々と持ち上げる仲野。水泳やってるからなんだろうけど、その細い体のどこにそんな筋力があるんだ。

「いくらスケベな鷲宮先輩だからって、あからさまに体をジロジロ見ないでください」

「み、見てねえ! そこまで見てねえ!」

「ほほう、”そこまで”ですか?」

「う……」

「鷲宮先輩も男の子ですから、多少は許してあげます」

「あ、ありがとう」

「ただし、鷲宮先輩の目線はあからさまですから、私以外の女の子にしちゃダメですよ?」

「そこまでなのか……?」

「はい。だから、そういうのは私だけで満足してくださいね?」

「以後、気をつけます……」

「じゃあ、私は帰ります」

「気をつけてな」

仲野は少し歩いた後、立ち止まり、俺のほうへ振り返る。

「……鷲宮先輩」

「なんだ?」

「鷲宮先輩の主観でいいので、答えてほしいんですけど」

「なにを?」

「私は……ちゃんとやれてるでしょうか?」

「…………」

「私は……ちゃんとやれるでしょうか?」

「さっきも言ったろ? 仲野は十分、自分のやることをやってる」

「…………」

「それに仲野なら、困難なこともきちんと出来るって」

「…………」

「俺はそう信じてるぞ?」

「そう……ですか」

「どうかしたか?」

「いえ……また学園で」

「…………」

仲野の後ろ姿が見えなくなるまで、俺は仲野の言葉の意味を考えたが結局答えはでなかった。


俺は眠る直前の今になっても、別れ際に仲野が言った言葉の意味を考えていた。

「なんであんなこと聞いてきたんだろ」

仲野、なにか悩みでもあるのかな。相談してくれれば、聞いてやりたいけど……。

「仲野なら自力でなんとか出来るかもな」

普段いろんなことこなしているし、大丈夫だろ。そんな楽観的なことを考えながら、俺は就寝した。

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