第53話就労移行

 桜に恋人ができました。つき合う前と同じく、お互いがお互いに緊張したままの関係でしたが。これでいいのかといつも疑問に思いながらも、恋人は桜の心の支えでした。


 特に就労移行支援に通うようになってから、彼の存在は桜の心の、大部分をしめています。


 就労移行支援、通称移行には、職業センター以上に色んな人がいました。その上、桜の通う移行は、人数が多くいつも人でひしめき合っています。


 桜は皆を無視することに決めました。


 自分は違うんだ、という思いに依然、囚われています。


「あそこにいたら変になる。皆、頭が悪くて嫌になっちゃう。皆、人間じゃないんじゃないの!」


 家に帰ると、桜は叫びました。


 お母さんは怒りました。


「自分も障害を持っているのに、なんでそんなことを言えるの!」


「だって、私が一番頭がいいんだもん」


 お母さんは、


「あんたが一番重症だ」


 と、吐き捨てました。


 お母さんは私でないから、私の気持ちがわからないんだ。あんな所に行ったら、ますますおかしくなるのに。


 そんな桜の気持ちを聞いてくれるのは恋人だけでした。


 勿論、お母さんの前で言ったようには言いません。ただ、自分とは違う障害の人がいるから疲れると言いました。

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