第42話幕切れ

 稽古場の扉を叩きます。


 「どうぞ」と言われて扉を開けます。


 先生がいました。他の年上の人も。


「桜ちゃんだよね」


 と、先生。


 桜は頷きました。


 そこから先、起こったことを桜は覚えていません。


 後に、記憶という形を借りて、数々のエピソードが頭の中で語られます。


 でも、それが本当にあったことなのか、夢の中なのか、想像の産物なのか、桜には判別できません。


 沢山の空想に現実が消されていきます。


 扉を閉める時、先生が見送ってくれたことだけは、本当に起きたことなのではないかと、桜は思います。


 まるで舞台の上で挨拶をするように、先生は言葉もなく深々とお辞儀をしました。


 桜はお辞儀を返しながら、先生のお辞儀は、役者らしく美しいお辞儀だと思いました。

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