第40話さようなら

 演劇教室に行くと、様子が変でした。


 先生が、マスクをしています。


 そして、片手にはマスクのストック。


 先生がマスクを配ると、皆がマスクを受け取って口につけていきます。


 嫌悪感を、桜はおさえました。


「誰か桜さんが辞めるのを止めたい人がいたら言ってください」


 稽古場は静かです。


 先生は、私の目を見て、言いました。


「桜さん、オレは凄く我慢したと思う。でも、昨日、公演が終わって疲れきった後にメールをもらって、オレはブチギレたね」


 昨夜、桜は先生にメールを送っていました。


『辞めさせないでください、続けさせてください』


 桜としては必死な行動であったのです。でも、あまりにも相手に対する思いやりが欠けていました。


「お帰りください」


 外に出る時、皆、無表情でした。物言う人は一人もいません。桜が扉を閉め、しばらくすると、気を取り直したように、笑い声が響いてきました。

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