第37話あやまち

 桜は演劇教室に戻って暫くは、なんとか講義を受けていました。


 ところが、疑心暗鬼の心が桜の内におこります。


 それは、あろうことか、お金のことでした。


 演劇教室の授業料は安くないのです。残り少ない貯金を崩している桜にとって、深刻な問題でした。


 劇団員は、多分無料で授業を受けているに違いない。それに、劇団の出演料だってもらっているだろう。そもそも、なぜ劇団員が教室にいるのか。無料で授業を受けているくせに、誰よりも良い役をもらっている。不公平だ。


 桜は、そんな思いに囚われました。


「授業料は皆、同じです」


 桜の質問に、経営者はこう答えました。


 信じられない。皆で、桜に嘘をついているんだ。昔は、あんなに仲良くしていたのに……


 悔しくて、桜はまた家で泣き、暴れました。


 お母さんは桜に疲れきった様子で、うるさいと言う他は、何も喋りかけませんでした。


 桜はどんどん追い詰められていきました。


 そうこうしているうちに、また発表公演の稽古が始まります。


 桜は稽古中もイライラして、おさえられなくなりました。なので、体を使う演技の練習をどんどん音を立ててしていましたが、よく知らない生徒に言われました。


「桜さんって、本当に演劇をやりたいんですか?」


 どこか、悔しそうな響きを持ったその声で、桜は心がえぐられる気がしました。


 私だって、本気でやりたい。でも、何もかも、止められないの……

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