第33話役立たず

『劇団員募集。興味のある人はお気軽にご連絡ください』


 インターネットで探した劇団のホームページ。その『お気軽に』という言葉を真に受けて、桜はメールを送りました。


 運良く、返事がきて、見学に行けることに。


 劇団は公演を控えて、慌ただしくしていた所でした。


 そこに桜が訪れたからもう大変です。


 一緒に基礎訓練だけを受けるようになりましたが、どうにも周りとの協調性を持てません。


 先生が作る劇の方が面白い……


 でも、劇をしたい。


 団長に体験入団をお願いすると、あっさり許可がおりました。


 桜の仕事は、演出家の発言を、隣でメモする演出補助みたいな役割でした。


 いつものごとく、メモは、桜の思う通りに書けません。文字の走り書きは、ミミズみたくなってしまいます。


 そうなると桜にはやることがありません。


 ただ、じっと稽古を見ています。


 出演者の中には、桜に踊ることを教えてくれた仲間もいました。ただ、皆で踊る時とは違い、稽古場での彼女は冷ややかでした。


 ある日、副団長にこう言われました。


「劇を作るということは、その場にいる皆で協力するということなの。桜さんがいると、表情が悪くて、皆稽古に集中できないわ」


 すみません、とその場しのぎの謝罪をします。


 桜は、態度を改めることができませんでした。


 先生の劇の方が、面白いんだもの。


 自然、皆の粗を探してしまいます。


 渋面を崩すことができないまま、公演当日になりました。例のごとく、桜は仕事を殆どすることができません。


 公演が終わっても、誰とも打ち解けて話すことができず、桜の体験入団は終りました。

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