第32話踊り

『桜ちゃん、劇に出たいかい?』


 演劇経験の長い仲間から桜宛にメールがきました。


『はい』


 桜は自分でもわからなくなるくらいの情熱を込めて、劇に出たいという気持ちをメールにしたためました。


『私達、今、ここにいるんだけれど、桜ちゃんもおいで』


 メールに記載された住所を訪ねると、貸しスペースでした。ここでお金を出すと、時間内、自由に部屋を使って良いのです。


「柔軟体操をしよう」


 と言われ、桜も皆に混じり、柔軟体操をします。


 高校の頃は体を動かす部活であったので、柔軟体操には自信があったのですが、皆の目標はさらに上を目指していて桜は取り残されたような気持ちになりました。


 それから一番経験のある人が、部屋の電気を消し、音楽をかける機械のスイッチを押しました。


「音楽を聞いて、体を自由に動かして」


 皆が動く気配がします。桜は自由に動きました。丁度、最近、ダンスの漫画を読んだ所だったのです。あの主人公になったように、感覚を研ぎ澄まして、斬新な動きができないかしら。


 慣れてくると、闇の中で皆が踊る姿が見えました。


 音楽が変わる度、桜は動きを変えようと工夫します。


「さあ、体を休ませましょう」


 音楽が止まり、体の一つ一つを休ませ、最後には床に横たわりました。


 放心した桜に、誰かがタオルをかけました。


「桜ちゃん、凄くリズム感がいいね」


「うん、ダンスをやったことない人って、いきなり体を動かせないんだけれどね」


 誉められて、桜の気持ちはふわふわと舞い上がり、落ち着かない感じです。


 演劇教室の話にもなりました。


「私、何度も『皆で』劇をすると先生に聞いたの。簡単に約束を破るなんて、先生を信頼できないわ」


 今日の仲間は、もう、演劇教室には行かないと言います。


 けれど、桜は……


 劇にもう首ったけなのです。勿論、先生にも。


「私達、頑張りましょうね」


 この人達を信じていいのだろうか。桜は疑問に思いました。

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