第26話演劇

 演劇教室で桜は笑われてばかりでした。


 例えば、人とすれ違う単純なシーンを演じる時、桜が歩くと途端に笑いがおきます。


「なんでそうなるんだ?」


 がははは、と大声で先生は笑いました。


「あんたは天才だ」


 と。


 桜は教室のムードメーカーになりつつあるのを自覚していました。


「桜ちゃん、帰りにご飯食べない?」


 楽しいことが桜に沢山起こりつつありました。


 演劇経験者も教室には沢山いて、小さな演劇界の人間関係に噂の花を咲かせているのを、側で聞いているのは楽しいと思いました。


 私も沢山劇に出られたらなあ。


 でも、難しいだろうなあ。


 教室の先生は、不器用な桜を面白くしようとして、いつも話題の種にし、皆から浮かばないよう配慮していました。


 いつからでしょう、桜は先生に恋をしていました。


 先生は、私の良い所を見てくれる。


 先生のことを考えると、幸せになって何も手につかない。


 桜の遅咲きの初恋でした。

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