第25話診断

 仕事を辞める少し前、桜はうつ病の病院に行きました。うつ病が記憶力を低下させると聞いたことがあったからです。


 仕事ができないのはうつ病のせいかもしれない、そうであって欲しいと桜は思いました。


 病院の先生は桜と幾らか話すと明るい表情のまま、言いました。


「あなたは、うつ病には見えませんね」


 そして病名らしきものを紙に書きます。


「あなたは『発達障害』かもしれませんよ」


 嫌な予感がしました。発達障害。桜は、短大の時を思い出しました。


 桜は福祉の講義を受けていたので、図書館で『発達障害』という文字を見た時、知らなくてはいけないような気がして本を開いたのです。


 そこには、人より成長がゆっくりな人もいる、というようなことが書かれていました。なぜか自分と重なる気がして、怖くて、すぐに本を閉じました。


「発達障害」


「詳しい病院の紹介状を書きましょう」


 紹介された病院に行くと、後日お母さんを連れてくるようにと言われました。


 お母さんと自分からの聞き取り調査、簡単なテスト……


 それらを受けて、お医者さんが下した診断は、やはり、『発達障害』でした。


「桜さんは一つのことに考えが定着してしまう傾向があるようです」


 声優になる人で、発達障害の人はいるんだろうか。


「障害者手帳を取って、専門の仕事を探した方がいいでしょう。色んな仕事がありますよ」


 でも、声優は。


「考えてみます……」

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