第14話落とし穴
春休みにお母さんの提案でアルバイトをすることになりました。
桜は気が進みませんでした。
初めて大人の世界に入り込むのです。人と話すことが苦手な自分に、アルバイトなんてできるのでしょうか。
それでもお母さんの言うことは絶対です。桜は食品工場の短期アルバイト募集の広告を見つけました。
いよいよ面接です。沢山の人と話すのが苦手な桜でしたが、一対一の会話は、不思議と上手くいくのです。
ところが。
通された部屋には沢山のアルバイト希望者がいました。女の人が忙しそうに部屋に入ってきます。アルバイトについての説明があり、それで終わりです。
「あの、履歴書はどうしたらいいんですか」
女の人の威圧的な態度が酷く桜には攻撃的に見えました。
「履歴書はいらないと電話でいいましたよね!」
ショックでした。誰かに、しかも、年上のよく知らない人に怒られるのは初めてでした。
放心状態のまま家に帰りました。すると、だんだん怒りがこみ上げてきました。あの、失礼な人!
桜は足を振り上げました。すると、壁に穴があいていました。
お母さんに、泣きながら謝り、その後で怒りをぶつけました。
寝なさい、と言われ、ベットの中でだらだらしました。
そういう日が続いた後、アルバイトの日がやってきました。
桜は一生懸命に働きました。残業がありました。働けば働くほどいいことだと桜は信じていました。
アルバイトの日程を全て終え、家に帰るとお母さんが質問します。
「仕事、できた?」
桜は自信たっぷりに答えました。
「ちゃんとできたよ」
お母さんは満面の笑みを浮かべました。それこそ、短大に合格した時よりも嬉しそうでした。
お母さんは心配していたのです。桜が、ちゃんと社会で働けるのかを。
この日が、ある意味で桜にとって、運命の分かれ道であったのかもしれません。
そんなことは露知らず、お母さんと桜は、喜びで一杯でした。
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