第一章

「へぇ……」


 ベースを弾いている小塚先輩の姿が想像できなくて、つい間抜けな声を出してしまった。


「高校を卒業したら、音大とか目指してたりするんですか?」


「ううん。別に。そういうことを仕事にしたいとかまでは考えてないから。まぁ、また違うサークルには入って活動するでしょうけど。大学は特にこだわってないし、どこでも良いかなって感じね」


 サラリと答えて、先輩は肩にかかっていた髪を軽く手ではらった。


「それじゃあ、わたしは行くから。あなたたちも、瑠璃に見つかる前に帰った方が身のためよ。一昨日あんなことされたばかりなんだしね」


 クスリと笑ってそう言い残すと、先輩は小さく手を振ってから校門を出ていった。


 暫くの間その後姿を眺める私たちだったが、校舎から出てきた女子生徒たちの笑い合う声で我に返り、


「私たちも行こう」


 こそこそと逃げるようにしてその場を後にした。

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