第一章

「気分悪くなったら遠慮しないで言ってね?」


「大丈夫。そこまで酷くないから」


 微笑してそう返す友人と並ぶようにして教室を出て、多くの声が混じり合いノイズと化した音を聞きながら下駄箱まで歩く。


「そう言えば、坂下先生にあれから何か訊かれたりした?」


「え?」


 靴を履き替えながら、私はふと思い出して訊ねてみる。


「坂下先生、具合悪くなった原因気にしてたでしょう? まるで私たちが隠し事しているのに気付いてるみたいなさ、変に鋭い感じしたんだよね」


「ああ……うん。でもあの後は別に何もなかったよ。すぐにベッドで休ませてくれたし、教室戻るときだって特に何だってことなかったから」


「そっか。なら良いけど」


 校門へ向かいながら、胸を撫でおろす。


 それからすぐに、一体何が良かったんだろうかと自分の吐いた言葉に疑問を抱いた。


 先生に一昨日のことがばれずに済んで良かったのか。それとも、天音が無理に問い詰められずに済んで良かったのか。

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