第一章
たまに、魂と一体化して身体の中から頭や手足が飛び出している重症な者もいるが、この少女にはそういった症状がみられないし気配も薄い。
それ故に、坂下は百瀬と呼ばれた少女へ安易に触れてしまったわけだが。
――小さい小動物の霊とか? ……いや、そういうのとも何か違う。
考えても埒があかない。
一旦そう判断して、坂下はひとまず少女をベッドで休ませることにする。
「押し問答してても仕方ないね。とりあえず、こっちのベッド使って。次の休み時間まで寝て、その時点でどうするか判断するから。教室戻れるようなら、ちゃんと戻ってもらうわよ?」
ピッと指を向けて告げると、少女は申し訳なさそうに小さく頷く。
「……わかりました。すみません」
随分と気が弱そうだなと苦笑してから、カーテンを閉めて少女を視界から消した。
「……」
それほど気にするレベルのものではないのだろうか。
こうしてカーテンでお互いを隔てると、更に何も感じなくなってしまった。
――とりあえず、気にかけてだけはおこうかな。
本人に話す意志がない以上、無理矢理事情を聞き出そうとすれば余計口を閉ざすだろう。
ならばひとまずは成り行きを見守ることしかできない。
そう思い鼻から短く息をつくと、坂下はデスクへ戻り仕事を再開した。
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