第一章

 同じアパートに住む住民がぶら下がっている息子を発見し事件が発覚したわけだが、坂下はこの事件が霊と言われるモノの仕業であることをすぐに理解した。


 さすがに死体を目撃することはなかったが、それでも警察が出入りする場所を遠巻きに眺めて嫌でもわかったのだ。


 三人が住んでいた部屋から溢れだす、黒く蠢く煙のようなモノ。


 そして、首吊り死体がぶら下がっていたであろう場所に、まるで蛇のように細長くなって絡みつく赤い服を着た女の異形。


 地の底から呻くように何かを呟き続けていたようだったが、もはや人間の言葉にすらなってなかったためその内容はさっぱりわからなかった。


 後日聞かせてもらった話では、どうやらその自殺した息子というのは一ヶ月ほど前に友人たちと心霊スポットに出かけて悪ふざけをしていた事実があったらしい。


“馬鹿者よ。関わらんと大人しく放っておけば何もされずに済んだだろうに。きっと悪ふざけが過ぎたんだろうな。それで、霊を怒らせてあっちの世界へ引きずり込まれた。……なぁ、玲菜? こういうことがあるから、奴らとは絶対に関わってはいかんぞ”

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