第一章

 朝、昼、晩、深夜、それらはどんな時間帯でも突然現れ、好き勝手に蠢いては目の前を通り過ぎていった。


“特に気にせんで良い。何もしなければ、あいつらが危害を加えてくることなんか滅多にありゃせんね。ああ、まーた何かおるな。くらいに思って、無視しておきゃ良いんじゃ”


 小学校五年生になった頃、幽霊が視えることを祖父に打ち明けたとき言われた台詞がこれだった。


 その言葉通り、現れる異界のモノたちは特に害があるわけでもなくただ動いているだけで、気にせず関わることさえしなければ無害な存在であったのは事実だった。


 ただ、一度だけ奴らが人間に牙を剥いたのを間近で見たことがある。


 中学二年のときだ。


 家から五十メートルくらい離れた場所に建てられていたアパートに、両親と息子の三人が暮らしている部屋があったのだが、ある日、そこの息子――確か浪人生だったか――が突然両親を滅多刺しにして殺害し、自分もベランダの手摺から首を吊って自殺するという事件が起きた。

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