第一章
3
ドアが閉まって数秒後。
立ち尽くしていたらしい少女の足音が遠ざかっていくのを確かめてから、坂下玲菜は小さく息をついてくるりと身体の向きを変えた。
気弱そうな生徒が、こちらの様子を窺うように見つめている。
否、視線が合った途端に瞳を逸らされてしまったから、見つめていたと表現すべきか。
「……ねぇ、百瀬さん。具合が悪くなった原因、本当に心当たりないの?」
静かになった室内に、坂下の凛とした声が響く。
「……特には、ないですけど」
まるで慎重に言葉を選ぶかのような態度で、百瀬は聞き取りにくいほどの小声でそう呟いた。
「本当に? 何か見てると隠し事してるような態度にも見えるんだけど、あたしの勘違いかな?」
坂下には引っかかるものがあった。
つい今しがた、彼女の額に触れた瞬間。
坂下の背筋にゾクリという得体の知れない悪寒が走り抜けた。
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