第一章

 でも、背後から押さえつけられている状況では簡単に逃げ出すことなんてできるはずもなかった。


 そして――


「――思ってさ!」


「むご……っ!」


 ガチッという、固い物同士がぶつかる音が大きく聞こえた。


「ん~! ん~!」


 身体を必死に揺らし、抵抗する天音の声。


「ほらぁ、ちゃんと口開けなよ!」


 渾身の力で歯を食いしばる天音の口に、瑠璃先輩は力ずくで小石をねじ込もうと握力を強める。


「ったく……、何をしてんだか」


 止めることなく眺めている庸介さんが、肩を竦めて呟く。


「んー! んごっ……お……っ!」


 そんなことに気を取られた一瞬の隙に。


 天音の低いくぐもった声が響き、瑠璃先輩の手にあった小石がその小さな口の中に詰め込まれていった。


「あはは、ほら、ちゃんと味わって食べなよ」


 こじ開けた口を今度は逆に抑え込み、もがく天音を楽しそうに見つめる先輩。


「赤ちゃんの幽霊が染み込んだベビーストーンみたいな? 何か、お菓子になりそうなネーミングじゃない、これ?」

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