第一章

 また大切な友人が酷い目に遭うのに守れない。


 それどころか、加害者の一人だ。


「大丈夫。気にしないで、珠美」


 お互いの逡巡は、時間にすればほんの数秒。


 天音は弱々しい笑みでそう告げると、自分だけで瑠璃先輩の元へ歩きだす。


 その先で瑠璃先輩に何事かを耳打ちされた郁代が小さく頷くのが見えた。


 たぶん、二人で仕掛けるつもりだ。


「とりあえずさ、その石の前に座ってもらえる?」


 言って、先輩が顎で示したのは供養塔。


「……はい」


 かなり警戒しているのが、友人の後姿からでもよくわかる。


 天音は言われた通りに積まれた石の前まで行くと、一緒についてきた先輩を気にしながら座り込む。


 何をするつもりなんだろう。


 成り行きを見守る私をよそに、瑠璃先輩は天音と同じようにして膝を曲げ座ってみせると何の躊躇いもなく手近な場所にあった小石を一つ、拾って掲げた。


「ねぇ、天音。ここの石、本当はもっとちゃんと積んであったはずだよね。そう思わない?」

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