第一章

 心配する私と天音の視線が交差する。


 助けてほしいという感情と迷惑をかけたくないという感情。


 その二つが混ざり合ったような、そんな視線を天音は向けてきていた。


「珠美、悪いけど天音こっちに連れてきてもらえる? もたもたし過ぎて待ってらんない」


「え、でも……」


 案の定こうなった。ここでもし断れば、きっと私も嫌がらせを受けることになる。


 天音も薄々それがわかっているから、私に気を遣い自らいじめを受け入れてしまう。


 悪循環。


 瑠璃先輩本人と側に立つ郁代はニヤニヤしながら私たちを見つめている。


 小塚先輩はどうでも良さそうにやり取りを眺めているだけで、助けてくれそうな気配はない。


 庸介さんも同じだ。よくやるなという風に自分の彼女を見やりながら、止める様子もなくただ傍観するのみ。


「天音……」


 まるでタイミングを計っていたかのように、近くの木で鴉が騒ぎ出す。


 それが、より一層私の焦燥感を煽る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る