第一章
「だから黙ってたんじゃない。こういうのは直前まで秘密にしておくのが基本でしょ?」
「そんな基本聞いたことないわ」
近くに生えていた杉の木にもたれかかって腕を組み、澄ました様子で言葉を返す小塚先輩。
「でも……瑠璃先輩、結局ここに来たのってわざわざこれを確かめるためだけだったの?」
「ん? まさか。そんなつまんないことあたしが考えるわけないでしょ」
ニヤリと目を細め、瑠璃先輩は郁代に身体を向ける。
「ちゃんと用意してるよ、面白いイベント」
そう言って先輩の瞳がスルリと動き、私のすぐ横を見据えてピタリと止まった。
隣にいる天音の肩が、ビクリと震えるのが視界の端に見えた。
――やっぱり……。
天音に向けている瑠璃先輩の、その表情。
小さい子供が無邪気に蟻を踏みつけて遊んでいるような、嬉しそうな顔。
それは、彼女が普段天音をいじめているときにみせる天然の悪意をこびりつかせたときの表情だ。
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