第一章

「つーかよ、何で赤ん坊なんだ?」


「ん?」


 釈然としない声で疑問を投げかけたのは庸介さん。


 両手をポケットに突っ込んだ格好で、どうでも良さそうに崩れた石を見下ろしている。


「こんな山ん中にある供養塔が、何でよりによって赤ん坊のために作られてんだ? しかも、こんな池の前によ。おかしくね?」


「ああ、それにもちゃんとしたワケがあるよ。えっと、ここは元々は普通のお墓でしかなかったの。でもね、何十年前かはよく知らないけど、ある日若い女の人が自分が産んだ赤ちゃんを生きたままこの池に沈めて遺棄してた事件があったんだって」


 話す内容とは裏腹に、瑠璃先輩の表情は得意げに明るくなっている。


 正反対に顔を顰めてしまったのは、他の女子全員。


「……ちょっと瑠璃、あなたそんな気持ち悪い所にわたしたちを連れてきたの? そういうの先に言ってよ。そしたら絶対についてなんかこなかったのに」


 そう言って、小塚先輩は期待外れなショーでも観せられたかのようにあからさまな落胆の表情を浮かべると、そのまま供養塔から目を背けてこちら側へ戻ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る