第999話 超究極生命体オキツネ侵略者で九尾なのじゃ

 人類が太陽系を脱出してから数十世紀の時が過ぎた。

 かつての故郷、地球はその存在を忘れられて久しい。

 今や人々は銀河・宇宙の果てを目指して、鋼の戦艦を駆りて真空の海を渡る。


 これはそんな時代に生を受けてしまった、一人の悲しき英雄の物語。

 そう、銀河に広がった人類の歴史、その1ページに名を記すことになる、時代が求めし英雄の物語。


 男の名は――サークラ・オットー・フォン・キツネスキー。


 様々な勢力に分かれた銀河を統一し、有能な家臣達の助けを借りて一大王朝を築き上げ、始皇帝そしてコスプレ好き好きド変態皇帝として、その栄光と悪行と共に名を歴史書に刻むことになる男だ。


 今宵、銀河に汚点がまたひとしずく――。


◇ ◇ ◇ ◇


「なにぃっ!! 我が艦隊前方に謎のスペースデブリだと!! 本当か、ダイコンアイス!!」


「ほんまやがな桜やん!! 見てくれ、この映像を!!」


「……ノジャコホー……ノジャコホー」


「……なんだこのスペースデブリは? ノジャコホーって、これは呼吸?」


「せや。おそらくアレは生命体。人類とはまた違う進化を果たした存在に違いあらへんで。間違いない。ワイが太鼓判を押す」


「そんな!! 真空の宇宙で生きているだと――そんなことが!!」


「熱源移動を開始!! こちらに向かって来るデース!!」


「やばい気がつかれた!! 桜やん、緊急回避や!!」


「ダメデース!! 避けきれません!! デッキ直撃デース!!」


「「「オワーッ!!!!」」」


 それは宇宙からやって来た侵略者。

 いや、元をたどれば人類と同じく、地球から派生した生命体。

 欲深く宇宙を汚す人類と違って、大宇宙の意思を受信して戦う、孤独なサイコパススペースフォックス。


 九つの尻尾。

 金色の体毛。

 そして、マヌケな顔。


 彼女はそう――人類の天敵。


「バカな、こんなバケモノが宇宙に!!」


「侵略者!! これは人類に敵対する侵略者やで!!」


「デース!! 怖いデース!! 助けてくださいタロウさん!!」


「あ、コヨーテちゃん、今、撮影中やさかい、素に戻ったらあかん」


 奴の名は。


「超究極生命体オキツネ侵略者カヨー!!」


「カヨカヨカヨカヨ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「はーい、カット!! おつかれさまでしたー!! 相変わらず加代ちゃん、良い感じに動けてるね!! とても産休明けとは思えない動きだったよ!!」


「……のじゃ、それはどうもなのじゃ」


 いつだってお仕事に全力投球。汚れ仕事からリアクション芸まで、頼まれたら断らないのが心情の、我らが嫁狐こと加代さん。


 しかし、産休明けからの復帰作、侵略者カヨーの撮影になぜだか心ここにあらず。

 どうにもしまりのない顔を彼女は浮かべるのだった。


 久しぶりの撮影。

 とはいえ、彼女の復帰作は満を持しての主役待遇。

 しかもSFXてんこもりのスペースオペラ作品。

 放映時間こそ深夜だけれども、ライオンディレクター至上最も金をかけた――ほんとうかしら――で行われる、気合いの入った作品だ。


 なのにどうしてそんな浮かない顔をするのだろう。


 長いブランクは、彼女から女優としてのプライドや技量を奪い去ってしまったのか。それとも、家に残してきた子供達のことが心配なのか。


 大丈夫、梅も桃も椛も、すっかりお姉さんになったなのちゃんに懐いているじゃないか。シュラトとアリエスちゃんは、仲良く異世界には帰っていったけれども、すっかり大人びて家事をてつだってくれるようになった、なのちゃんがいるじゃないか。


 なんだったら、用もないのにちょくちょく俺たちの家に妲己さんも遊びに来る。

 もう全然、子離れしてもいい時期だし、そのための環境も整っている。


 なのにまだ、君は母親という立場から戻ることができ――。


「なんで復帰第一作が、こんな色物低級パロディドラマなのじゃ!! これ、いったいどこに需要があるのじゃ!!」


「はい、まぁ、そこですよね。うん、分かってました」


 そりゃ怒りますよ加代さんも。

 こんなひっどい番組の主演を任されるだなんて。


 普通ドラマの主演って聞いたら、もっと画になるのを想像するじゃないですか。深夜ドラマだからちょっと癖のあるのかなとは思うけれども、それでも主演でございますよ。動画配信サービスで顔が切り抜かれるような事態でございますよ。


 のじゃのじゃ、これでお母さん皆に自慢できるお仕事できるのじゃーって。

 ウッキウッキでスタジオ来て見たらこれですよ。


 主演――侵略者とか、そりゃ落ち込みますがな。


「ま、分かっていたけれどな」


「正直、ワイらに声がかかった時点でお察しやな」


「リーダー!! プレデタースタイル似合ってるデース!!」


「のじゃぁあああああああ!!!!」


 はい、どうどう加代さん、どうどう落ち着いて。

 すっかりと妊娠太りも解消して、元のスタイル取り戻したけれども、まだまだアンタ体力戻っていないんだから。

 あと、家に帰ったら普通に子供の世話しなくちゃなんだから。


 こんなくだらないことで怒ってどうするのさ。


 結婚、出産、子育て、そして社会復帰。

 いろいろあったよでていけあんたは九尾さん。なんかまた急に時間がすっ飛んだ気がするけれども、これこの通り、俺と加代さんは元気にやっております。


 ダイコンとコヨーテちゃんも、まぁ、ぼちぼちやっています。

 前野の奴は、あの後急に結婚するし、葵ちゃんもなんか彼氏ができたそうです。親父やお袋、妲己さんは相変わらず。ハクくんも。唯一たいへんだったのはシュラトたちだけれど、まぁ、それはまた別の機会に話されることだろう。


 とにもかくにも、俺たちは元気にやっております。

 俺も、加代も、そして、娘の――梅、桃、椛の三姉妹も。

 そう、みんな女の子だったのよね。


 ぶっちゃけ隣のロリコン野郎の目が怖いです。はよお前も子供作れや。そしたら治らないにしても少しくらいは自制が効くようになるんじゃないの。

 しらんけれど。


 とまぁ、そんな訳で、今日は加代さんのお仕事復帰日。

 それに合せて、ライオンディレクターがついに彼女に主演の仕事を持ってきたというので、こうしてみんなで来たんだけれども。


「やっぱりこのザマ、加代さん残念九尾さんなんだな」


「デース!! なんか懐かしい感じデース!!」


「せやな。そして、梅ちゃんたちには見せられへんな、こんなお母さん」


「のじゃぁああ!! クビになるのはもうなくなったんじゃないのじゃぁ!? こんなのってないのじゃぁ、あんまりなのじゃぁ!!」


 クビにはなってないじゃないのよ。

 ただ、まともな女優の仕事が降っては来ないってだけで。

 嘘偽りはないわな。


 やれやれ、ようやく加代さんのクビになる芸も見納め、これからは有能オキツネ展開待ったなしかと思いきや、やっぱりこうなる九尾さん。

 労働ってのは難しいんだな。


 とまぁ、そんな感じで。


「またこれからもよろしくな加代さん」


「のじゃぁ!! もうっ、こんなオチ要員嫌なのじゃ!! わらわってばもうお母さんなのに!! お母さんなのにぃ!!」


「お母さんだからこそ、子供に身体張ってる所をみせないと!!」


「そんな芸人みたいになりとうなかったのじゃぁー!!」


 今日も元気にのじゃのじゃこやーん。

 加代さん劇場は明るく元気に楽しく続いて行くのであった。


 フォックスフォックス!!


【了】


【ここまで長らくのおつきあい、まことにありがとうございました。m(__)m】


【よろしければ、このあと作者からのあとがきがありますので、そちらもお読みいただければ幸いです。m(__)m】

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