第997話 思えばいろいろあったものじゃで九尾なのじゃ
『ようこそ。いらっしゃいませなのじゃ』
『8番。あと、なんでお弁当コーナーおいなりさんしかないの?』
うわぁ。くそ懐かしい。
加代さんと俺が出会った時の奴じゃないですか。
というか再現度高いな。マジでこんな感じだったよ。
ちょっと話ただけなのに、これだけ完璧に仕上げてくるとか、流石は映像を作っている人たちだけはある。
披露宴もたけなわ。
新郎新婦の友人達による催しとなり、新郎側としてダイコンと前野そしてシュラトがドジョウすくいを披露し、新婦側としてライオンディレクターと加代さんの友人たちによる、俺たちの思い出のシーンの再現映像が流された。
ドジョウすくいはいいだろ。
失笑以外の何物も産まなかったんだから。
むしろ、この感動超大作ビデオの前振りとしてはよく仕事をしてくれたよ。
ほんとほどよく温度を下げてくれてサンキューな。三人とも、死んだ顔をしているけれど。
それはともかく再現ビデオだ。
作るときに、参考にしたいと言われて幾つかエピソードを語ったけれど、ちゃんとそれを映像にしてきてくれてるな。演者は間違いなく加代さんじゃなくってアリエスちゃんだし、俺もなんかやたら美形――ていうかハクくんがやればそうなるんだけれど――になっているけれど、めちゃくちゃ再現度が高いの。
もうなんていうか、あるあるあったってそういう相づちしか出てこない。
ほんとすげえわ。流石はプロって感じだ。
『けど、三千歳を超えたオキツネならば結婚できる。そう、九尾ならばねなのじゃ』
「うわぁ、これは最近だ。ダイコンを結婚相談所に連れて行ったときの」
「のじゃのじゃ。あの時もまだ、桜は腹をくくってなかった感じじゃのう」
「いや、もうちょっと、あと少し、条件が揃ったらとは思っていたのよ?」
「……ほんとかのう? どうかのう?」
『しかし、尻尾が一つ多い狐は、言うことが違うね。共に支えあう人がいれば、その苦しみを分かち合える、か』
『のじゃのじゃ、伊達に人さまより長く生きておらんのじゃ』
「これはあれだな。大和建設の事件の時の。けど、俺、こんなキザなこと言ったっけか。ちょっと恥ずかしいんだけれど」
「のじゃぁ、キメッキメなのじゃ、
次々と流れてくる、俺たちの思い出のシーン。
まぁ、確かにいろんなことをやりました。体感速度にするとそんなに出会ってから時間が経っていないというか三年くらいの気がするけれど、よくよく考えてみると五年くらい経っているのか。
よくもまぁその間、恋愛の熱も冷まさずにいろいろやって来たもんだ。
逆に、これだけいろいろとやってたら、そりゃそろそろ結婚するのもしかたないし不意打ちで子供ができちゃうのも仕方ないよな。
しかし、見ていてこそばゆいったらない。
新郎新婦の席からプロジェクターにより映し出される映像を眺めて、ほぁと間抜けた顔をする俺と加代さん。恥ずかしいやら嬉しいやら、いろんな感情で頭がない交ぜになっている内に、話はどんどんと進んでいく。
『長い喪女時代があったからこそ、
これは加代さんが、なんか花嫁修業の講師してた時の奴。
『終わったよって言いてぇっ!!』
『のじゃぁ!? なんで四人がこちらの世界にいるのじゃぁ!?』
これは異世界から戻って来た――と思ったら、ナノちゃんやシュラトがついてきてびっくりした時の奴。
『のじゃ!! みたか桜よ、これが
これは俺が仕事をクビになって、バイト探ししてた時。そして、その職場にことごとくバイトリーダーとして加代さんが顔を出していた時の奴。
『ふぅ、やれやれ。急に蝗の大軍に襲われるとはツイてないぜ』
『ライオンディレクター』
これは俺がゴールデンカ○イにハマっていた時の奴。
うん、結婚関係なくねえこれ。
『ま、名前は生前も大根太郎ともうしましてね。なんの因果か、生まれ変わったら、いきなり歩きダイコンになってましたよ。うわっはっは』
『『おはぁーっ!! また危ないパロディ!!』なのじゃ!』
そしてこれはダイコンと出会った時の奴。
だから、これ、結婚関係ないでしょ。
『ここをキャンプ地とするのじゃ!!』
言ってない。それは言ってない。
東南アジア編で、散々野宿はやらかしたけれど、そんな危険なパロディはやっていない。というか、なんでアフロで主演男優に寄せてんだよ。
それ言ったのは男優の方じゃなくて、ディレクターの方だろうが。
ちょいちょい色々とエピソードが脱線してやがるな。
ちくしょう、人の結婚式の余興でもちゃっかり笑いを取ってきやがって。
今は、なのちゃんがロリになった加代さんの真似をしてるけれど、それも反則だろうよ。ていうか、その時が一番一緒に生活してて大変だったよ。
同居人がいきなり青少年健全育成条例に引っかかる姿になるとか、なかなかない経験でございますよ。まったく。
なんかこう、最初の頃は純粋に楽しんでいたけれど、見れば見るほど純粋な気持ちで楽しめなくなってくるな。
うん、いい恥のかきさらしだよ。
こんなん皆も結婚式でやってるのかしらね。
少なくとも、昔出た時には見ませんでしたけれど。
『終わりじゃないのじゃ!! そんな考えは古臭いのじゃ!! いまの世の中は、男とか、女とか、そんなの関係なく――支え合って生きていく世の中なのじゃ!!』
「あ、これ。俺が失業給付貰えないのが分かって、やさぐれてた時の」
「のじゃのじゃ、あったのうこれ。こんなこと」
うわ、懐かしい。
俺と加代さんが同棲し始めて、それでなんかようやくお互いに色々と言えるようになりだした頃のだ。ようやくこの件でふっきれて、なんていうか、ちゃんとお互いに相手を尊重するようになったんだよな。
それまでは、一緒に暮らしているけれど厄介な相手みたいな感じでさ。
そうそう――。
「このやりとりで俺、加代さんのこと好きなんだって、自覚したんだよな」
「……のじゃ、男というのはまっこと面倒くさい奴よのう。こんなことで」
「いやだって、自分のためにここまで怒ってくれる女性なんて、絶対そんなに巡り会えないじゃん。どうでもよくなかったら、こんなに怒らないでしょ?」
というか、怒らなかったでしょうと、俺は加代さんに尋ねる。
ぷいすとそっぽを剥いた彼女だが、化粧の下からも覗ける頬の赤さが、その答えを物語っている。
素直じゃない。
けど、ちゃんと気持ちは伝わってるよ。
折りにつけてそうやって、俺に熱い気持ちをぶつけてくれていたから。
そうだな、俺の加代さんへの思いはここから始まっていたんだなと、そんなことを思って俺は少しほっこりとした気分になる。
なんだかんだと言ったが、この映像を見られてよかったのかもしれない。
自然、俺の口の端はつり上がり、自分でもよく分からない笑いが口からこぼれた。
「のじゃ、まぁ、恋に落ちるのは人それぞれじゃからのう」
「そういう加代さんは、どこで俺に恋に落ちたのさ」
「……それはその」
『指示はちゃんと出てるだろうが。あとはてめえがどれだけその指示を、腐らずにこなすかダケじゃねえのか? えぇ? 違うか?』
ヤダ、イキったクソダサ雑魚プログラマーの啖呵が聞こえる。
やめてちょっとそれ。
確かに前の職場ではオラついていましたけれども。
そんな感じで、常に周りを威嚇して仕事していましたけれども。
今は丸くなったでございませんことよおほほ。中間管理職にもなって、マイルド桜くんになったじゃないですのよ。もうブチギレの桜なんて言わせなくってよ。
なんでこんなの映像化してるんだよ、恥ずか死してまうわこんなん。
そんなことを思う俺の瞳に、じっとその映像を眺める加代の顔が映る。
なんでだろう、その顔が、画面の中――アリエスちゃんが演じている加代さんと重なって見える。
あぁ、なるほど。
「……随分と、早かったんだな、加代さんの方は」
「……のじゃ。振り向かせるのに苦労したのじゃ。結婚するほどになるとは、自分でも思っておらんかったがのう」
長い長い恋を叶えた俺の嫁狐は、優しく微笑んでこちらを見た。
相変わらず頬は紅色だったが、今度は彼女は恥ずかしがらなかった。
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