第996話 ザッツ結婚披露宴で九尾なのじゃ

 グダグダにグダった結婚式は、結局もう一度神父さんを正規の人に直して最初からやり直しということになった。


 そりゃそうだ、あんな結婚式で納得できるかよ。


 新婦の席にライオンディレクターとアシスタントディレクターさん、さらにカメラマンさんを加えて再びはじまったそれは、まぁ、一回目の派手な失敗のおかげで順調すぎるほど順調に進んだ。


 指輪の交換もスムーズにできた。

 誓いのキスも俺からちゃんとすることができた。

 台詞も朗々と言えて、気持ちいいくらいに完璧な結婚式ができた。


 逆にライオンディレクターに感謝するべきだったのではないだろうか。

 さては、俺たちがこうなることを予期して、わざとこんなドッキリイベントを仕掛けてくれたのではないだろうか。


 ただまぁ、この場に居る人間の中で、一枚も二枚も上手な人間の本心など、読み解くことなどできそうにもなかった。そして、そんなことをしている暇もないほど、めまぐるしく結婚式は終わり、続いて結婚披露宴へと俺たちは移行した。


 小さなホールを貸し切って、それぞれがグループになって席に座る。

 中央のちょっとでかい目の席に向かえば、この日のために入念に打ち合わせを重ねたスタッフさんが、俺と加代さんの経歴を読み上げる。


 嘘っぱちではあるのだが、できるだけ事実に近づけて書いたプロフィールを聞いている間、俺と加代さんはしばし肩を寄せ合って、結婚式の緊張をほぐしていた。


 すぐに、俺の名前が呼ばれる。

 新郎の挨拶だ。


「えぇ、みなさま本日はお忙しい所、お集まりくださりありがとうございます」


 お決まりの挨拶。これも、先日スタッフさんと加代さんを交えて、さんざん考え抜いたものだ。さんざん考え抜いて無難な所に落ち着いてしまったのが、なんだか少しこっぱずかしいのだが、それはまぁ、そういうものだと思っておく。


「ささやかではございますが、このような場を用意させていただきました。どうか本日は心ゆくまでご歓談のほどよろしくお願いいたします」


「なに普通の挨拶してんだ桜ァあああ!! 面白いこと言えやボケぇえええ!!」


「誰がボケじゃこら前野!! お前、まだ、乾杯の音頭もしていないってのに、なに勝手に飲んでんだ、おうコルァ!!」


 そして、普通にやろうと思ってもできないのが俺たち。

 やっぱりこういう騒がしいノリになるのね。


 なんというか、これはライオンディレクターと違って分かりやすい。

 妙にぎくしゃくとした空気をほぐすように、前野の奴が入れてれたちゃちゃのおかげで、場がほどよく和らいだ。

 んだよ、たまには空気読んで行動できるんだな、前野の奴も。


 続いて、加代さんにスピーチが渡る。これまた、俺と同じく事前に準備・練習してきたのだが、そこは緊張しいの彼女、ちょっとしどろもどろになっていた。


「えっと、あの、その、このたびは、わらわのようなもののために、わざわざお集まりくださりありがとうございますなのじゃ」


「卑屈か。加代さん、流石にそれはちょっと」


わらわはその、なんと言っても九尾だし、人様に迷惑かけるばかりだし、なんというかこの手の幸せには遠い存在だと思っておったのじゃ。けど、今日こうして結婚式と披露宴をするとなって、これだけ多くの人が集まってくれて。くれて」


 そう言って、ひっくと加代さんが嗚咽を漏らす。


 いかんな、感極まってという奴だ。

 そして台詞が練習の時とはちがう。完全にアドリブになっている。

 きっとど忘れしてしまったのだろう。けれど、今更これを止めに入ることはできない。どうする、どうすればいいと、俺は息をのむ。


 しかし、加代さんはぐっとそこを自分で堪えた。堪えて、視線を上げて、俺の方を少しだけみて微笑むと、何度か目をしばたたかせて再び言葉を紡いだ。

 台詞はすでに用意したものを流用できない状態になっている。

 けれども、加代さんはその言葉を紡ぐのをやめない。


「それがとても嬉しくて。本当にありがたく思っているのじゃ。結婚式なんて、別にやらなくてもいいと思っておったのじゃが、こんなにみんなに祝福されるのなら、やらぬという選択肢はないのう。のじゃ、ほんと、みんな、こんなわらわたちのために、今日はどうもありがとうなのじゃ!!」


「デース!! そんなことないデース!! みんな来たくて来たんデース!!」


「そうですよ加代さん!! みんな、貴方のことを祝福してます!!」


「えっと、えっと!! おめでとうございます、加代さん!!」


「なのーっ!! お姉ちゃん、おめでとーなの!!」


「お姉ちゃん綺麗だよ!!」


「そうよ加代ちゃん、自信をお持ちなさい!! 貴方は私の娘――じゃなくても、胸を張って人前に出せる立派な女性なんだから!!」


 俺の時とは違う優しい声援が飛び交う。

 あったけえな。ほんと、いい人たちに囲まれたもんだと思うよ、加代さんてば。


 せっかく泣くのを堪えたというのに、たまらずあふれ出てきた涙を、そっと加代さんがハンカチで拭う。すかさず彼女からマイクを受け取って、その流れでその肩を優しく撫でてやる。本当に嬉しそうに泣く嫁と視線を交わしてわかり合えば、俺はそのマイクを横でスタンバイしているスタッフさんに任せた。


 今はこの幸せをちゃんと噛みしめよう。

 この一瞬、二度と訪れない幸福を、ちゃんと胸に刻もう。

 きっとこれからの長い俺たちの人生で、この瞬間がいろんなことを支えてくれると思うから。これからの結婚生活も。子育ても。そして、それが終わってからの、長い長い、二人だけの時間も。


「えぇ、それでは、新郎の桜くんから代わりまして、司会は私、彼の友人であるダイコンタロウが務めさせていただきます。皆さまお手元に、飲み物の準備はよろしいでしょうか。って、ほら、桜やんたちも、はよ持ってんかいな」


「わかってるよダイコン」


「のじゃ、ごめんなのじゃダイコン」


「えぇがな、大阪のノリでワイも言っただけやし。しばらくそうしときいな。後は、こっちで上手いことやるさかいに。それじゃ皆様、ご準備はよろしいでしょうか」


 相変わらず妙な所で頼りになる親友が、感極まる俺たちに代わって披露宴を上手く回してくれる。それでは乾杯という音ともに、披露宴会場の天井に紙吹雪が舞い、軽快なミュージックが流れる。スタッフさんたちがフラッシュモブを披露し、音楽に合わせてみんなが手を叩く。

 そんな中――俺と加代さんは、人生で最高の幸せを噛みしめていた。


 よかったな加代さん。

 よかったな俺。


 そして、これからも二人でこの幸せを越えられるように、力を合わせて生きていこうな。

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