第995話 誓いの言葉で九尾なのじゃ
式は特に波乱もなければすこぶる順調ということもなく、新郎新婦のわちゃわちゃとした心境に沿って進行した。
スムーズに指輪の交換ができなかったり。
台詞を間違えるやら噛んでしまったり。
それはもうやらかし放題。
そんな俺のテンパりが伝染したかのように、周りの拍手も少しずれこんだりと、なんていうかグダっていた。
グダっていたけれどそれを含めて俺たちを祝福してくれる温かさがあった。
新郎側の席にはいつもの面々。
親父お袋、ダイコンにシュラト。前野のバカに前の会社の知り合い。最近いろいろと世話してくれるようになった部長と、結構いろいろな人が来てくれた。
陸奥さんと練馬さんは、流石に遠慮しておくよと欠席していたけれど、電報は入れてくれているらしい。披露宴でその内容を聞くのがちょっと楽しみだ。
新婦側の席には妲己さんにハクくん。コヨーテちゃんに、うちから別れたアリエスちゃんとなのちゃんドラコが座っている。ライオンディレクターたちは、撮影があるので二次会から合流。人数こそ少ないけれど、そこは妲己さんが――花嫁を食うほどのバチバチ主役オーラを発してなんとか誤魔化してくれた。
いや、そこはもうちょっと遠慮して欲しかったかな。
自分の娘の晴れ舞台で何をやっているんだか。
「あれが加代ちゃんのお母さん。前にも会った気がするが――でへへ」
「お父さん、何を見てるんだい?」
けどまぁ、ここに居る人そんなに多くないから、釣れるのはうちのクソバカエロ親父だけなんだな。あとでお袋と好きなだけ家族会議してちょうだいどうぞ。
なんにしても、そんな家族の温かい視線の中で着々と式は進行していく。
意外と結婚式自体は短くて、長いのは披露宴の方なんだな。事前打ち合わせで尺については確認していたんだけれども、すんなりと進んでいくのにちょっと拍子抜け。それでも、ここまでゴタゴタにいろいろとやらかし続けるので、これが披露宴になったらどうなるのやらと、ちょっと不安ではあった。
などぽやぽや考えているうちに。
「新郎さん。貴方はこちら、オキツネ加代ちゃんを生涯の伴侶として、病めるときも健やかなるときも、共に歩むことを誓いますか」
俺に結婚式一番の見せ場――愛の宣誓のお鉢が回ってきたのだった。
ただまぁ、なんか妙に砕けた言い方だな。
オキツネ加代ちゃんって。その通りだけれども、そしてこういう軽いノリがこれまで続いてきたけれども、結婚式くらいは真面目にやってよ。
どうすんの、誓うのとさらに追い打ちをかけてくる神父さん。
なんか文句言ったり突っかかったりするとさらに長くなりそうだったので、俺は細かい所は目を瞑って、その質問に答えた。
「誓います」
「ほんとにー?」
「いや、ホントにってなんだよその切り返し!! 誓いますかと聞かれてはいって答えて、なんでそれを疑われなくちゃならないのさ!!」
「からのー?」
「からのもないよ!! なんだよこの神父!! どっから連れてきたんだ!!」
大阪だからってどっかの新喜劇から呼んできたんじゃないだろうな。ちょっと、勘弁してくださいよ。一生に一度の結婚式なんですよ。
そんな俺の焦りを余所に観客達はばかうけ。
ダイコンや親父が、腹を抱えて笑い出す始末であった。
結婚式で大爆笑とかするもんじゃないでしょ。
空気読んで。
もう一度確認してきた神父に、俺は本当だよとキレ気味に返す。分かりましたとそれで神父は納得してくれた。いや、そういう仕事じゃないでしょアンタ。
まったくもう、なんなのこの結婚式。
「それでは新婦さん。貴方は、このムッツリドスケベ野郎嫁にドギツイコスプレさせて喜ぶどうしようもない桜くんを、生涯の伴侶として共に生きる事を誓いますか」
「うぉい!! なんだその質問!! なんでそんな言い方する!! 事実かもしれないけれど色んな人いるでしょうが!!」
「のじゃ、まぁ、確かにちょっと、時々――えぇ、こんなの着せるのじゃ、これは
「そこは素直に愛してますとか、歩みますとか言おうよ加代さん」
「……本当は?」
「本当はもクソもねえよ!! お前、ほんといい加減にしろや、神父!!」
というか、嫁に興奮がどうとかそういうこと言わせないでください。
子供も見てるんですから。それでなくても親族の居る場なんですから。
嫁に変な恥をかかせないで――。
「そっか、桜やんてば、そんな深い闇を抱えとったんか」
「デース。信じられないデース」
「ワシら、育て方を間違ってしまったんかいな」
「とんだバカ息子だよ」
「桜どの、それは流石にちょっとどうかと思うぞ!! もっと加代どのの内面を愛してあげるべきなんじゃないのか!!」
「えっと、えっと――ひどいと思います、最低です桜さん!!」
「うわぁ、俺に全ヘイトが向かう。なんで」
いきなりお通夜状態に入るダイコン達。
祝福ムードから一転して場が静まりかえる。
なんなのこの茶番。確かに俺が加代さんにそういうのをお願いするのは事実だけれども。事実だけれどもそれのいったい何が悪いというの。
家族なんだから、夫婦なんだから、男と女なのだから――そういうのはあってしかるべきでしょう。夜の生活は夫婦の聖域じゃないのよ。
いいじゃない。ちくしょう。
「まったくなんなんだよこの結婚式は!! さっきからちょいちょいちょいちょいと小ボケをかましてさ!! 頼むよ、こっちは真面目に結婚式やってんだから!!」
「それはこっちの台詞ダヨー。さっきからなんなの。新郎のくせに、神父にツッコミ入れるとか。そんなんじゃ、祝福してあげないヨ?」
「しろよアンタ!! それがアンタの仕事でしょうよ!! 金貰ってるんだから、そこはつつがなく、そして思い出に残るようなウェディングにしなよ!!」
「いやまぁ、違う意味で記憶には残ると思いますがね。えへへ」
「なにを上手いこと言った気分になってんだ――」
○すぞと言いそうになってさっと加代さんに口を塞がれる。
手じゃない。
もっと柔らかい感触で、俺の唇が塞がれる。
まだ誓いも途中。キスの音頭も取られていないのに。そして、新郎からではなく新婦の方からという不意打ちに俺は戸惑う。放心したまま、加代さんが俺からそっと顔を離すと、彼女はいつもの、なんだかバツの悪そうな笑顔をこちらに向けた。
そうあの、仕事が失敗したときに見せるような、可愛らしい笑顔を。
「のじゃ。すまんのじゃ桜よ。実はのう、
「……まさか!?」
「結婚式ドッキリ企画、桜に黙ってしてみませんかと打診されて。それで、オッケーしちゃったのじゃよ」
「どうも、神父こと――特殊メイクしたライオンディレクターです」
べりり。マスクを破って露わになるのは見知った顔。たてがみのような髭が逞しいライオンディレクター。彼はてへりと気味の悪いウィンクをかますと、ちょっと後ろを振り向いて、スピーチ台の裏からひょいとプレートを取り出した。
白塗りのそれに書かれている赤い文字。
それを読み上げれば、俺の頭は目眩に揺れる。
「どっきりのじゃのじゃ大成功なのじゃ!!」
「おっ、お前なぁああああああ!!!!」
どっと笑いが巻き起こる結婚式場。
この感じ、さてはみんな知っていたな。
とほほ。知らぬは新郎、俺ばかり。
こんなひどいオチってあります。
けれどもまぁ、一生記憶には残るだろうし、これまでこんな忙しいやりとりを繰り広げてきた俺たちにはぴったりかもしれなかった。
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