第994話 準備室でどきどきメイクアップで九尾なのじゃ

 さて、そんなこんなであっという間に結婚式当日。

 俺と加代さんはそれぞれの控え室に籠もって式の準備をしていた。

 というか、ほぼ家族ぐるみで同棲しておいて両家毎に別れるのはどうなのだろう。今更感半端ない感じではあるのだけれど――それよりも何よりも俺は初めての結婚式の空気に飲まれててんやわんやだった。


 えぇ、俺、本当に結婚しちゃうの。

 やだ怖い。


 男でもマリッジブルーってなっちゃうんだね。

 うぅん、このご時世に男だからとか女だからとかナンセンス。一生に一度のことなんだもの。うまくいくかなドキドキって不安になるのは仕方ないじゃん。ぷんぷん。


 はぁー、くそたまらんでらきんちょうするばいです。(何語だよ)


「しっかりせえ桜やん!! これから加代ちゃんとお腹の子供を育てていく親になる言うのに、何をそんなびびってんねん!! 男やったら、もっとどーんと構えたらんかい!!」


「そうだぞ桜!! 緊張する気持ちはわかる!! けどな、お前の結婚は祝福されてのものだろう!! 俺みたいに、母さんの実家から蛇蝎のごとく嫌われて、結婚式もろくにあげられなかった――そんな男とお前は違うじゃないか!!」


「そうだ桜どの!! こんなことで怖じ気ついてどうする!! 男だったならガンガンいこうぜ!! 集まった人たちを、全員なぎ倒すくらいの勢いでいこう!!」


「うぅん。そして新郎側の控え室人員のこの暑苦しさよ」


 こういうのって普通もうちょっとバランス考えません。新郎側に揃いも揃って、男ばっかり詰め込んだらなんかこう結婚式っていうより決戦前って感じになっちゃいますよ。とてもじゃないけれど、式を前にした人間にかける言葉じゃない。


 というかダイコン、お前は親族でもなんでもないだろう。なに入って来てんだ。

 別にいいけれどもさ。ほぼ家族みたいなもんだけれどもさ。


「ただ、控え室にまで来てくれたんなら、せめてみんなもうちょっと励ましてくれよ。俺の不安な気持ちをくみ取って、もっとその気にさせてくれよ」


「「「男が何を情けないことを言っているんだ!!」」」


「お前らだけには言われたくねえそんな台詞」


 揃いも揃って情けねえことこの上なし、俺と加代さんとパートナーにどれだけやきもきさせて来てんだか。ラブコメ大失格連中が、雁首揃えて何を言うって感じだ。


 はい、言い訳になっておりませんね。

 全部、情けのない俺が悪いんでございます。申し訳ございません。しくしく。

 ほんと結婚式まであと数時間を切ったってのに、まだ腹が据わらない辺りいよいよ男らしくないよな。こんなの、昨日の晩に済ませておくべき葛藤だ。


 というか俺がこんなんじゃ加代さんも安心して嫁に来られないよ。

 もう既に、籍は入れちゃっているんだけれどもさ――。


「のじゃぁー!! 桜よ、ウェディングドレスに着替えてきたのじゃー!! どうなのじゃ似合っておるのじゃぁー!?」


「そんなことなかった、少しも躊躇してなかった。流石は俺の加代さん、面構えというかその厚さが違う」


「こら、加代ちゃん、レンタル衣装なんだからそんなに動かないの」


「加代さん、ダメですよ!! もうっ、これから式なのに崩れちゃいます!!」


「おにーちゃん!! おねーちゃんきれいになったのー!! みてあげてー!!」


「きゅるくーん!!」


 はい、とか落ち込んでいたらその花嫁がご乱入。厳かな洋風結婚式場を選んだっていうのにさ、両開きの扉をバーンして入ってくるの。

 情緒も緊張もへったくれもありませんよ。どんだけメンタル強の者なの。

 俺と一緒にビビりまくってるよりはましだけれども、ちょっとびびるよね。


 金色でくせっ毛な長い髪の毛を、三つ編みにしてからさらに後頭部で巻き上げた加代さん。色白な肌と合わさって、東洋人というよりは西洋人形のような仕上がり。

 まさしく理想の花嫁姿になった彼女は、どうなのじゃどうなのじゃと子供のように俺に感想を尋ねてきた。


 すっかり舞い上がっちまっている。


 仕方ないか。三千年の長い月日を生きながらも、今日までそんな格好をすることはなかったのだから。いや、女性の一世一代のハレの日に、その喜びようをあれこれと評することほど野暮なことはないな。


 めでたいものはめでたく、綺麗なものは綺麗。

 それでいいじゃないか。


「めっちゃ似合ってるよ加代さん。なんていうか、加代さんじゃないみたいだ」


「のじゃ!! なんなのじゃその褒め言葉は!!」


「あ、やっぱりいつもの加代さんだわ。その切り返しは、俺の嫁ですわ」


「どういう意味なのじゃ!!」


 この、このと俺の頭を羽交い締めにして、ぐりぐりと頭頂部に拳をこすりつける。仕掛けたのは俺だけれども、こんなん新郎新婦の控え室での会話じゃない。

 もっとこうあるでしょ、なんかこうエモエモな会話が。


 人生に一度だけの結婚式でございますのよ。


 いつも通りの加代さんに安心というかがっかりというか――なんて、いつもなら返すのだけれど。俺に抱きつきながらもちょっと彼女の身体が震えてきたのに、なんとか俺は気がついた。まだほんの少しくらいは、パートナーの様子に気づく余裕はあったみたいだ。


 ひょいと加代さんから離れてその顔を見る。

 先ほどまで、花嫁とは思えないくらいに暴れていたお九尾さまは、のじゃと少し気恥ずかしそうに黙り込むと、その白い頬を紅潮させた。


 まじまじとみるとやっぱり綺麗だ。

 いつも見ている彼女なんだがな。花嫁衣装以外にも、いっぱい綺麗な加代さんを見てきたつもりなんだけれどな。今この瞬間、彼女が一番輝いて見える。

 結婚式の魔力ってものかね。


 まぁ、見とれるのはそれくらいにしておこう。


「大丈夫だよ加代さん。予行練習もしっかりしただろう。俺たちは、ただただ、司祭さまの言葉にはいはいって言ってればいいだけだから」


「のじゃ、それはそうじゃがのう。けど、やっぱり、人の目があるのとないのとでは違うのじゃ」


「加代さんがなんでもできる器用な人だって俺は知ってるから。だから大丈夫」


「のじゃ、けれどもわらわは、ほれ、このとおりポンコツで」


「あれ? 自覚あったの?」


「なければこんな風に誤魔化したりはせんわ!! たわけ!!」


 ここに来てあかされる衝撃の真実。

 そっか、ちゃんと自覚はあったのか。


 まぁ、けど、別に関係ないよね。


「お婆さんにそれはもう解いてもらったでしょう」


「それは、そうじゃが」


「あと、ポンコツなのは仕事だけで、それ以外はなんでもできるスーパーオキツネさんじゃないか。これでも頼りにしてるんだぜ、君のこと」


「……ほんにもう」


 しょうがないのう!!


 そう言って、加代さんが俺の身体をぎゅっと強く抱きしめる。

 そのまま上目遣いにこちらをみて、誘うような視線を向けてきたので、思わず俺はそれに応えそうになってしまった。

 やれやれ、流石は傾城の女狐の血を引くだけはある――。


「こら、お前ら!! 誓いのキスはまだこの後だろうが!!」


「せやで桜やん!! 加代やん!!」


「まったく、気の早い子達なんだから」


「なのー!! ちゅーしちゃうなのー!!」


 けどまぁ、それはもうちょっと後。俺は加代さんの物欲しそうな鼻先に、ぴとりと指を当てると、苦笑いを返したのだった。

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