第185話 誰が書いたか設計図で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
クレーム対応のために特定養護老人ホームへと向かった桜。
そこで彼は、施主の意向がまったく反映されていない現実に直面するのだった。
そして加代は、工事現場をクビになり、その親会社の事務所で事務員のアルバイトをするも、面つゆを麦茶とまちがえて出してしまうのであった。
「なんだかしまりがねえなぁ」
◇ ◇ ◇ ◇
「へい、お客さん、どこまでいくのじゃ!!」
「んでお前はまたそうしてタクシーの運ちゃんになってると」
「お客さん、うちはこの辺りじゃ最安なのじゃ。ついてるのじゃ」
「この変わり身の早さ、お前はキューティー○ニーかよ」
のじゃのじゃ、誰がキュートなのじゃ、と、なぜか照れる加代。
褒めてるつもりはこれっぽっちもないのだが、まぁ、こいつの機嫌がよいのはいいことである。
工事現場前で捕まえたタクシーに乗り込む。宮野部長はこれからまだいろいろと、他の部署を回らなくてはならないらしい。ひとり、本社に戻る――という体でほうりだされた俺は、すぐさま次の案を考え始めた。
ミラー越しにこちらの様子をうかがうオキツネと目が合う。
「のじゃ、桜よ、何か案はあるのか」
「――んー、やっぱ設計部に問い合わせてみるしかないだろ。一旦、会社の方に戻ってくれるか」
いや、待てよ。
俺は一緒に持ち出して来た、事務所のノートパソコンを取り出すと、自分のスマホでテザリングをかけ、社内ネットワークにVPN接続をかけた。
この工事の設計を請け負った人物くらい、データをさかのぼれば見つかるだろう。
今のご時世、業務をアナログなデータで保存している会社なんてない。
老人ホームの名前で案件の検索をかけると、すぐに、プロジェクトの資料一式をまとめた、管理情報が見つかった。
流石は係長、閲覧権限もすんなりと付与されている。強くてよかったIT技術――つってもこれくらい普通だがな。
「のじゃ、なにしてるのじゃ?」
「会社のネットワークにアクセスして、グループウェアで案件の資料探してる。えっと、さっきの老人ホームの設計図は――あったあった。で、これを書いたのは」
ファイル登録者の名前にうん、と、俺は首を傾げた。
白戸圭太。営業部のエリート課長が、なぜかそれを登録していたのだ。
どうして営業部が設計書を記載して、それを登録しているのだ。
たしか入社前に受けたレクチャーじゃ、設計部をうちは自前で持っているんだよな。
「ふむ、なんかあるのか、これ」
「事件の匂いなのじゃ。サスペンスのにおいなのじゃ」
「いやお前、そんなテンション上げなくってもいいだろうがよ」
だが実際のところ妙なのには違いない。
こういう時には、白戸圭太、の名前で引いてみるに限る――。
きっとログとか残るのだろうが、そうも言っていられない。施主さんが困っているのだ、俺は検索窓に、やり手課長の名前を入れると、彼が登録したファイルの一覧を取得した。
◇ ◇ ◇ ◇
多い。
べらんぼうめに多い。
マンションから、こじんまりとしたアパート、ちょっとした寄り合い所に、町工場の社屋。それら、ほぼほとんどの、第二営業部が大きく関わっている案件の設計図は、この白戸圭太がグループウェアに登録していた。
どういうことだろう。彼の承認を待って、登録しているということなのか。
使い方が分からないのだから、今一つつかめない。
ただ、他の設計図を見ると、設計部の部課長の名で登録されているモノも多い。
「――分からん」
「考えても埒があかないのじゃ。直接聞いてみるのじゃ」
「お前ね、それができたら、俺も苦労はしてないっての」
はたして白戸圭太がどうしてこんな大量の設計図を、営業部の人間だというのに登録しているのか。また、このべらんぼうめに多い、そして、常軌を逸するような登録ファイル量はなんなのか。
そこのところが結局、今回の件には深く関わっている気がしてならない。
「事業所に戻らなくてよかったかもしれないな。こんなん調べてるところを見られたら、妙な噂をたてられたかもしれない」
「のじゃぁ!! その時は、
「そういう噂じゃねえよ」
なんで男どうしでそういう噂が立つんだよ。
というか、お前、あのオフィス追い出されたばかりだろう。すぐに戻れる訳ないっての。
やれやれ、そんなため息をついた時だ――。
「うん?」
「のじゃ? どうしたのじゃ? クーラーの利きが足りなかったのじゃ?」
「いや。なんだろう。これ、設計図が、どれも、微妙に書き方が違っているような」
どれもこれも、同じ人が書いたものではない。
というよりも同じソフトで書いたものではない、そんな感じがする。
縮尺や、線の表現などは同じなのだが、ファイルのナンバリングの位置や、備考欄の書き方などに、明らかな違いがみられた。
普通、こういうのは社内で統一しているもんじゃないだろうか。
うちの会社も、UMLソフトは無理してJU○E使ってたぞ。なのに、なんで――。
あぁ、そうか。
「うちの会社以外のところに、頼んだからか」
「のじゃ?」
加代がよく分かってない声をあげる。俺はもう一度、その、老人ホームの設計図をよく見ると、そこに、何か識別することができる、内容がないか探し始めた。
と、言ったところで、ぷすぅ、と、エンストする音がする。
「のじゃ!! 暑いからって、エンジン効かせ過ぎたのじゃ!!」
「――お前なぁ」
こりゃまたキューティー○ニー七変化。いや、九尾だから九変化か。
はたして今日だけでどれだけ仕事を変えるのか、まぁいいや、と、俺は慌てて外へと駆けだす加代を見送ったのだった。
「のじゃぁ、やっぱりクーラーはいかんのじゃ。もっと別の方法で涼しくしなくちゃいけないのじゃぁ」
「地球温暖化に優しいのね、加代さんや」
「あれじゃのう、幽霊とかおばけとか、そういう感じで肝を冷やせばいけるかのう」
「うぅん、九尾がタクシー運転手してる時点で、相当ホラーだよ?」
九尾タクシー。なんと聞こえの悪い、というか、背筋の寒いタクシーだろうか。俺も、知り合いでなかったら、乗るのをご遠慮したいところだよ。
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