第186話 外注さんで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
実績作りのためにはたしてクレーム処理を任された桜。
早速、グループウェアでナガト建設の仕事について調査するうちに、設計図が営業部の白戸の名前で登録されていることに彼は気が付いたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
お狐タクシーから乗り換えて、走ること数時間。
俺はとある設計事務所へと訪れていた。
「この設計図を担当されたのは先生ですよね」
「――あぁ、白戸くんに頼まれて、やった覚えがあるけれど。というか、おたく、いったいどちらさま」
パジャマ姿に無精ひげ姿で玄関先に現れたのは、この設計事務所の代表にして設計士。個人経営のこの事務所の唯一の社員――個人事業主、ここの事務所の社長だった。
何か私の仕事に不備でも、と、ふてぶてしい感じでこちらを睨む社長。そう身構えないでくださいよと前置きすると、俺は設計事務所に上がり込んだ。
あからさまに嫌な顔をする彼だが、大口の顧客であるナガト建設の名を見てしまうと、文句を言うのははばかられるらしい。しぶしぶという感じで、彼は来客用のソファーに腰掛けた俺の前へと腰を下ろした。
「いやぁ、結構はぶりがよいご様子で」
「おかげさまでね。ナガトさんに仕事を回してもらえなければ、今のご時世どうなっていたことやら」
「そんなごご謙遜を」
「事実ですよ。今は、私らみたいな個人の設計事務所は、どこも厳しいですから」
仕事に関してはどこも大変なのだろう。
社長さんの態度には、真摯に問題を受け止めようというものがあったし、問題についてこちら側の原因と切り捨てるような、荒っぽさはなかった。
流石はうちの部のエース、白戸が選んだ設計事務所である。
そんじょそこいらの金さえもらえりゃどうとでもな派遣会社とは違って、責任感を持って仕事をしていらっしゃる。俺のような、ちゃらんぽらん、会社にお小遣いをもらいに出社しているような奴には目に痛い限りだ。
まぁいい。
それはともかく、これだけはっきりとした態度を取る人間が、怠惰で仕事を失敗したとは思えない。おそらくヒューマンエラー、打ち合わせの段階で、必要な情報がすっぽりと抜け落ちたのが、今回のクレームの発端だろう。
隠し立てしてどうなるものでもない。
俺は素直に、起きている状況について社長さんに説明した。
コーヒーも飲んでいないのに、苦い顔になっていく社長さん。最後の方には、すっかりと肩を落としているのが、なんとも申し訳なかった。
「――なるほど。すまない、施主さんにそんな迷惑をかけていたとは」
「いや、貴方が謝ることではないですよ。設計に関して、そういうオーダーは入っていなかったのでしょう?」
「メールでやり取りしているから、議事録も電子化してある。確かめてくれていいが、おそらく初耳だ」
「こちらで担当したのは白戸ということで問題ないですか?」
「主に受けているのは白戸さんの仕事だが、彼だけじゃない。これは――確か彼の部下の仕事だったように思う。いや、思えば書類の整理なんかがおざなりな子だった。悪い子じゃないのはよく分かってるんだが――」
「ありがとうございます、それだけ分かればこちらとしても十分です」
それよりも、もう少し、建設的な話をしませんか。
俺は少し膝を社長の方に近づけると、微笑んで彼に言った。
◇ ◇ ◇ ◇
設計事務所から出てくると、加代が自転車に乗ってチャルメラを吹いていた。
「豆腐、豆腐やだよぉー、できただよぉー、あぶりゃげもあるよぉー」
「またお前そんな古臭い商売して」
「のじゃ。こういう下町では結構まだ重宝されるのじゃ――で、どうだったのじゃ?」
あまりの手持無沙汰にやっていただろうそれの手を止めて、加代が俺に話し合いの成果を問う。おう、ばっちりよ、と、某倍返し番組みたいに笑って、おれは彼女に背中を向けた。
「のじゃ、自信満々なのじゃ」
「人間てのは逆境でこそ、その真価というものが問われるのさ――そしてその逆境を、どう好機に変えるかもな」
「なるほど。硬くなった豆腐があぶりゃーげになるように、一見するとダメなものをよいものに変える相違工夫が大切ということなのじゃな」
「あぶりゃーげのくだりはよくわからんが、そういうこった」
見てろよ白戸。
まずはお前の牙城に、少し、入り込ませて貰おうじゃないか。
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