三日目――其ノ二

 コテージに着くと玄関の前に立つ一の姿があった。

「静ちゃん。一人?」

「ええ。二人は後から来るはず。先に入ってましょ」

 中に入ると乃愛がテレビに釘付けにされていた。

「静ちゃん。二人と一緒かと思ってた」

「ええ。途中ではぐれちゃったから」

「二人、雨大丈夫かな?」

「そんなに気になる?」

「そりゃ一応最年長だから気にはするけど」

「タララララン~♪ タララララン~♪」

電話が鳴る。あいつからの着信。出る必要性が無い。私は無視する。

「出ないの?」

「いいわ。知らない人よ」

数十分の落ち着いた時間。

扉の奥から影が現れる。

「ただいまぁ~」

彼女は明るく右手を上げる。

「おかえり。音衣」

「おかえりなさい」

彼女は私の予想通り何事もなく帰ってきた。

「二人とも歩くの速すぎぃ~。酔っぱらいの事も考えてよぉ」

「ごめんなさい。気がつかなかったわ」

「もぉう。シーズーのいじわるぅ」

冗談交じりに彼女は言う。口調はいつもより遅い。

「音衣。雨、大丈夫だった?」

一が問いかける。

「うん。傘持ってたから」

「へぇ。みんな意外と準備いいんだな」

「管理人さんが言ってたでしょ。この辺では突然雨が降るって。」

「そっか。忘れてた」

彼は思い出したような顔でそう言う。

「そう言えばハルハルは?」

「まだ帰ってない。一緒じゃなかったの?」

「シーズーが一緒だったよねぇ?」

「ええ。でも私も途中ではぐれたわ」

嘘をつく。仕方のない噓。

「音衣。帰ってくる途中にいなかったのか?」

「うん。見てないかな」

彼女は不安そうにそう言う。

「まさか、迷子ってことは無いよな」

「分からない。でも、もし、間違えて山道に入っちゃったら、出てこれないかも。あそこ迷路みたいだから」

二人は無駄な心配をする。あまり事を荒立てたくない。

「どこかで雨、凌いでるとかじゃない? もし傘を持ってないならこの雨の中帰るのは困難よ。」

「まぁ、確かにその可能性もあるよな」

「でももう雨止んでたよ」

「それ本当? なら、もう帰って来るかもしれないな」

「でも一応私、連絡とってみるね」

そう言い音衣は立ち上がる。一は窓を開け空を確認する。

「確かに、止んでる」




                   ○




                   ○




 音衣の電話は繋がらず、数十分が経過する。

 扉が開く。そこにずぶ濡れの女が立ちすくんでいる。

「あれっ。帰ってきたよ。華ちゃん」

「ハルハル、おかえり。ってどうしたの! そんなに濡れちゃって」

それはあいつ。なぜか目を潤ませている。とてもみすぼらしい恰好。

「華花。おかえり。私バスタオル取って来るわ」

 あいつは私たちの元に倒れ込むように駆け寄って来る。

「静子。音衣。二人とも無事だっ……たん……だ」

私は洗面所から持って来たバスタオルであいつの体を拭く。あいつに触れる事にためらいを感じたが、空気を読みそうするべきだと判断した。

「ハルハル。大丈夫? 何かあったの? 話聞くよ」

「ううん。いいの。二人がいてくれるだけで十分だから」

 思った以上の効果。ただ置き去りにしただけ。それなのにこの効果。昨日や一昨日の努力が馬鹿らしく思えるほどの効き目。今回に関しては、快感もあったがそれ以上に驚きの方が強い。私はまだこいつの恐怖のツボを把握しきれて無いようだった。それを知ることができればさらに暴力的な苦痛をあいつに与えられる。わたしはその希望に胸躍らせた。


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