三日目――其ノ一
日本食料理店で夕食をとった後、私たちは帰途に就く。
「おいしかったねぇ。おいしすぎて私ついつい飲みすぎちゃったよぉ」
「うん。すごくおいしかった。特にあの天ぷら。あんなの初めて食べたよ」
「そうだよねぇ。あのお店、結構有名で、新宮村はもちろんだけどそれ以外でも結構遠くからお客さんがわざわざこの山奥まで来たりするんだよ。私、昔この村に住んでたから、あのお店の店長さんとは顔見知りなんだぁ」
お酒のおかげか、あいつと共にいてもそれほど気にならない。
「シーズーはどうだった? 何か気に入ったのあった?」
音衣が気を回し私にも話を振る。
「私は焼き茄子かな」
「シーズー、なかなか渋いチョイスだねぇ」
彼女は前後左右に重心を揺らしながらそう言う。
「よく言われる。というか音衣、ふらつき過ぎ」
「あはは。ほんとだねぇ。千鳥足だぁ」
彼女は何故か喜悦する。
「ハルハル。シーズー。二人とも千鳥ってみたことある?」
「見た事ない」
「無いわ」
「えぇ。無いの? すっごく可愛いんだよ。よちよち歩いてね、ピーピー鳴くんだよ。それはもう儚げに。私ね、この鳥を見るといつも思うの。こんなに朧げな命でも懸命に生きてるんだから私も頑張ろうって」
音衣は私とは対照的な人間。彼女は私が考えないような事をいつも考える。千鳥の話もその一つ。そう言った面で対照的。思考回路が正反対。
「雨、降ってきそうだね」
あいつが気安く話しかけてくる。私が自分に何をしているかも知らずに。
「静子も結構お酒飲んでたけど普段と全然変わらないね」
「私こう見えて割と強いから。お酒」
「へぇ。じゃあ日常的に飲んでたりするの?」
「いや。普段はあまり飲まない。でも、飲もうと思えば他の子よりはかなり飲めると思う。親がお酒好きで毎日飲んでるから。多分、遺伝」
お酒の力は凄い。あいつと共にいる苦しみを多少紛らわせる事ができるから。
しかし、あいつと会話を続けるうちにその効能は切れてくる。
「コホォコホォ」
吐き気がする。やはり苦痛。こいつと一定時間仲良くすると気分が悪い。
「そういや、静子、昨日体調悪かったんだって? 大丈夫?」
「うん。大丈夫。昨日は(おまえをいじめたくていじめたくて心が)苦しかったけど今日はだいぶまし(だった)」
「でもまだ咳出てるし、まだしんどい?」
「さっきまでは何ともなかったけど、今、少し(おまえをいじめたい感情が)ぶり返してきたみたい」
「本当に大丈夫?」
「うん。平気だから。気にしないで」
「それ、何だろうね。風邪かな? 昨日はやっぱり寝込んでたの?」
「いや。私スピーカー持ってるんだけど――」
「スピーカー?」
「そう。ワイヤレスで電子機器に繋げられるやつ。それでいろいろ(おまえの部屋でお経を)流してそれを(おまえの悲鳴を)聞いて気(おまえへの復讐心を)を紛らわしてた。そうしてないと(おまえへの嫌悪感で)胸が潰れそうなほど苦しかったから」
「そんなにしんどかったの?」
「うん。でも大したことないから」
「いや、それは大したことあるでしょ」
「大丈夫よ。だって私あなたより(おまえなんかに屈しないほど)強いから。」
私は挑発するように口角を上げた。
「音衣。静子が変な事言ってる」
あいつは私の敵意に全く気づいていない様子。
「……」
「あれっ。音衣?」
「……」
音衣の姿は無い。忽然と消えた。しかし、私は驚かない。彼女は自由人。集団からはぐれることもよくあること。それに、彼女と私は対照的。私は突然はぐれたりしない。ゆえに、彼女が消えようと私は驚かない。
「音衣~~~~」
案の定あいつは心配を装う。内側では何も感じていないくせに。その取り繕われた表情や仕草に憤怒の念を抱く。
「静子。引き返そう。音衣を探しに」
黒雲が空を覆っている。雨の匂いがする。豪雨の匂い。それを感知し妙案を得る。
「うん。分かったわ」
来た道を引き返す。ペースを調整しながら。
私の狙い通りの場所で雨が降り出す。雨量は瞬時に最高潮に達し、最後の一押しを要求する。
「あそこ。鳥居が見えるでしょ。たぶんあの奥に神社があるはずだから。そこなら雨も、しのげると思う」
神社へ向かい階段を駆け上がる。勾配の急な階段を。あいつは前を走る。私はその後に続く。
そして試合を終わらせる。私は静かに引き返す。雨から逃れることに夢中のあいつは全く気がつかない。
あいつが視界から消えると、折り畳み式の傘を優雅にさす。一人コテージへ帰る。
それは小さないたずら。夜の神社に一人になる事が、どれほどあいつに効果があるか分からない。後々の反応に期待する。
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