第65話

「おはよう、拓真。」

「おはよ。つぐ。」

拓真と偶然昇降口で遭遇する。

「珍しいな。お前が朝から挨拶できるなんて。」

遅刻ギリギリに滑り込んで、10時くらいまでは会話にならないことに定評がある私だ。

「寝てない…ことはないな。寝てたよな。確実に。」

「うん、昨日は寝落ちた。」

悪びれることもなく、ケロッと答える。

「あれは11時くらいでしょう?おかげで今日は早く目が覚めて…。」

「ちょっと待て、つぐ。お前いつも何時に寝てるんだ。」

「早くて二時。」

拓真は少し黙ってから

「今度から日付が変わるまでに寝ろ。」

と、怖い顔で言ってきた。

「無理。」

珍しく朝から覚醒している、私の横を見知った顔が何人か過ぎ去っていく。優里が私に話をしたとき…。それは、綾乃サンの意図にみんなが気づいた時なのだろう。気づけば避けるのは私ではなく、彼女たちのほうになっていた。

優里だけは努めて平静を装っているように見えるが、亜哉を通じている仲、そもそも仲良しではない。

その様子に気づかないほど拓真はぼんくらではない。拓真もついに顔を覚えてしまった彼女たちを見るたび、ほんの少しだけ眉間にしわを寄せる。

「拓真。」

私はそんな顔をする拓真を呼び戻すために、彼の名を呼ぶ。

いつから私はこんなに嫉妬深くなったのだろう。

拓真が本当に想っている人がいることは、ずっと知っていて、それでいいと思っていたのに、千葉さんが現れて動揺して。

それを引きずったまま、かつての友人たちに向ける目を恐れる。

「つぐ。」

「ん?」

「話したいことがあるんだ。付き合ってくれるか?」

「…昼?放課後?」

「俺は午後あるけど、お前ないんだから俺にとっての昼で、つぐにとっての放課後だな。校舎裏で。」

「呼び出しか。」

思わず突っ込んだ。

「そこは、屋上とか言ってよ。」

「つぐ、知ってると思うが、漫画の世界のように簡単に屋上には入れないんだ。それとも東棟の階段にするか?」

「まだそっちのほうがいいわ。」

「じゃあ、そこで。…一応立ち入り禁止なんだが。」

拓真の一応、といった感じの付けたしは、それ以上の意味は持たない。

「いいじゃない、不良がたまってるわけでもなければ、不純異性交遊をしよう、ってわけでもないんだから。」

「…まあな。」

ああ、早起きが三文の徳なんて嘘だ。

拓真に会えたことが三文の徳だというなら、マイナスが大きすぎる。

これなら、いつも通り寝ぼけたままのほうがよかった。

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