第66話

憂鬱な気持ちを抱えながら、いつも通り身の入らない授業を聞き流す。

「じゃあね、つぐな。」

「ん、ばいばい美湖。ああ、ひいちゃんにあったら今度漫画借りに行くって言っといて。」

「りょーかい。」

美湖と別れて、重い体を引きずりながら拓真との待ち合わせ場所に向かう。

東棟、旧校舎みたいなもので、特別教室が並んではいるが、ほとんど人が寄り付かない。用事もなければ、理由もないからだ。おそらく大人の事情といったやつで放置されているのだろう。いくつかの部室も存在するが、ほとんどが幽霊だ。

書庫がこちらにも存在するからか、井岡にはあったことがあるけれど。あいつは文字に埋もれて生きて、死ぬのが理想らしい。

「つぐ。」

「拓真。」

声が待ち合わせ場所の階段から聞こえ、振り返る。少し伸びた髪が、自分の首筋をくすぐったことに、場違いな驚きを覚えた。

階段を駆け上がり、拓真の横にぺたりと座る。

床にじかに座ったから、むき出しの太ももに冷たさが伝わってきて、身震いする。

「寒い?」

「いや、体が驚いただけ。」

拓真は笑いながら隣に座り、制服の上着をかけてくれる。

「暑いって。」

「そこまでの時期でもないだろ。」

季節の変わり目としか言いようがないが。

午後の授業がある拓真は、お弁当を食べ始める。私は今日は午前で帰るつもりだったので何も持ってきていない。美湖が恵んでくれたポッキーを横でつまむ。

「そっか、飯持ってきてないのか。」

私がポッキーをつまむのを見て、申し訳なさそうに言う拓真に、箱を振り示す。

「美湖からこれもらったからヘーキ。」

「ま、これやるよ。」

「サンキュ。」

菓子パンのような小さなお菓子をくれた。拓真の舌は信用してる。美味しい。

黙々と二人で食べ物に向き合う。

「また眠いのか?」

もともと口数は多くない上に、あまり愉快におしゃべりしたい気分でもないから黙っていただけなのだが。

「別に。」

少しふてくされた私をあやすように拓真は笑う。

「それでな、つぐ。話っていうのは…。」

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