第64話 幕間

「つぐ…?」

寝落ちたのか、電話の向こうからなんの音もしない。眠たい時のつぐの頭が使い物にならないことはよく知ってる。無理に起こしたとしても、電話越しじゃいつも以上に、らちが明かないだろう。

「郁につぐ、か…。」

つぐもあゆも俺が郁に縛られていると思っているみたいだが、違う。

俺は郁以外の存在で、自分の存在を、行野拓真という人間を認められなかったんだ。

家族ではない、誰かに自分を愛してほしかった。

郁はアメリカナイズされた人間だから、人を愛することへのハードルが低い。郁にとって人を愛することはさほど難しくはない。…郁は、俺と正反対だ。

対称的に、つぐと俺はよく似ている。

人を愛して裏切られるのが怖くて、自分が愛さないことを愛されないことの言い訳にしている。

郁といれば、きっと心の空白を埋められるし、つぐと一緒にいれば、苦しむことはないだろう。

郁はボーイフレンドがいるようだが、友愛として愛することにためらいのある人ではない。

でも…。

「つぐちゃん、おいしいって。優しい笑顔で食べてたよ。」

家に帰ってきてすぐ、俺に言い残したあゆの言葉が耳にこびりついて、とても嬉しかった。

郁も、つぐも嘘をつかない。二人とも性格は違うけれど、根本で自己愛と、他社への無関心な優しさを持ってる。

俺が、利益を度外視して、一緒にいたいのは誰か。

「ヘタレ卒業しなよ、兄ちゃん。」

返ってきたあゆが投げつけてきた言葉が耳にこびりついて離れない。

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