第27話

≪次は~≫

「つぐ、起きて。着いたよ。」

車内放送が遠くに聞こえとき、拓真が私を起こす。

「ん…。」

「着いたよ。降りて?」

軽く揺さぶられて、覚醒までは届かないけれど、少しだけ目が覚める。

「なんか今日のたくま、妙にやさしくて気持ち悪い…。」

「すっきりした?」

「おかげさまで…。どのくらい寝てた?」

「丸々寝てたから30分くらいかな。…あつっ。」

電車の扉が開いて、ホームに降りると、途端に熱波が襲ってくる。

「まだ5月のはじめなのに…。一気に目覚めた…。」

気分はあまりよくないが、目は覚めた。

「あれ?拓真荷物多くない?いつも財布くらいしか持ってこないのに。」

「ちょっとな…。行くぞ。」

拓真は慌てたように外へ出ていく。私に詮索されたくない?

「ちょっと待ってよ!どこ行くの?」

「もう少しだから気にせずついて来いって!」

「まだ教えてくれないの…?」

「だって教えたら絶対ついてこないもん…。」

なにか拓真が小声で言っているけれど、聞こえなかった。

「なんか言った?」

「なにも?…いいからついておいでよ。大丈夫、この俺がお前を傷つけたことがあるか?」

「確かに私は、傷つけられたことはないけれど、お前の性格の悪さもわかってるんだよね。」

「大丈夫だから…。」

拓真と二人並んで、暑い道を歩き続ける。どこか嫌な予感はするけれど、まだ少しだけ微睡みの中にいる私は、幸せだった。

「着いたよ。つぐ。」

「帰る。」

少し暑さにうなだれていて、事実に薄々気づいた私に、拓真が声をかけたところは予想通りの高校の前だった。私は踵を返す。

「待って。」

拓真が私の腕をつかむ。私は拓真をにらみつける。

「拓真、あんただましたわね。なんであの子たちの試合会場に連れてくるのよ!?見に行かないって言ったわよね。あんたそんなおせっかいな性分でもないでしょう。途中で薄々気づいてた…。でも、信じたのよ。拓真はそんなことしないって。それなのに…。」

困惑する私と同じような表情を浮かべて、拓真は言葉を返す。

「ほんとなんでだろうな…。でも、なぜかお前を連れてこなきゃいけない気がしたんだよ…。」

「ほんと、よしてよね…。」

私はため息をおもむろに吐く。

「つぐ。これが注文されたんでね。届けてくれるか。」

拓真はずっと持っていた、今ならわかるクーラーボックスであったカバンを私に押し付ける。

「注文者は、村瀬綾乃。お得意様だから、注文も承った。来れない当人の代わりに、試合終了後に。…届けてくれるか。」

「綾乃サンが…。断れないじゃない…。試合を見ろってことなのね…。」

私はどんな表情をしているのだろう。私は腹立たしくて拓真の帽子とパーカーをはぎ取る。男物だけれど、拓真の趣味と、今日の私の格好からしてさほど違和感はない、少し暑苦しいのは仕方がないから我慢することにする。

「なにすんの、つぐ…。」

拓真が驚いた表情を浮かべる。

「私の姿見たら、あの子たち集中できないでしょ。あんたの姿に気づくことはないだろうし…。試合を見ろって綾乃サンも…あんたも言うんでしょ?だったら拓真、あんたにも付き合ってもらうわよ。」

うまく私は笑えているのだろうか。拓真は顔をくしゃっとして言った。

「喜んで。」

「あと…。」

「ん?」

私は今からすごく恥ずかしいことを言う。

「少しだけ…服握らせてもらってもいい?」

拓真は驚いた顔をして

「…いいよ。いくらでもどうぞ。」

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