チーズは乳牛の夢を見るか?

地球から遠く離れた惑星。黄色い海に包まれたこの星に、それまた黄色く小さな2頭身の生き物が住んでいる。彼らは知性を持ち、立派な文明を築いている。


今彼らの間では不思議な都市伝説が流行っている。誰もが一度は「白黒の大きな生き物」の夢を見るという話だ。もちろんそんな色の生き物はこの黄色い星には住んでいない。


「皆が話す特徴を合わせると、生物として理にかなっているように思える」

彼らの世界の学者はそう語るが、まだ宇宙の存在に気づけていないほど未熟な文明であるため、真相を解明することはきっとまだ先だろうーーー




ここからは、彼らがあと千年はたどり着くことができないであろう誕生秘話について説明する。


地球上に文明が誕生して数十万年。科学は発達を極め、他の恒星系も含めた複数の惑星に人間が住み着くようになっていた。

惑星毎に文化が形成されていった結果、一周回って「地球」の文化ブームが起きていた。

そんな星の一つ、ケンタウルス座プロキシマ・ケンタウリを周回する惑星では、地球のあるごはんが大ブームを起こしていた。


「チーズフォンデュが食べたい!」


全星民がこぞってチーズを求めた。しかし星に牛はおらず、全て地球からの輸入頼りであった。

そこで彼らは地球から超大量のチーズを輸入することにした。

まもなくして地球から9000京リットルのチーズを積んだ貨物船が出航した。

しかし不幸なことにその貨物は、恒星間移動中に隕石の事故にあい、チーズもろとも宇宙の藻屑となってしまった。

この事件は惑星史に残る悲劇となり、チーズ感謝の日としてカレンダーへ刻まれることとなった。


この時のチーズはその後どうなったか。

ぶつかった隕石がコアとなり一つの星になった。そして、近くにあった別の恒星系の重力圏につかまり、星を周回する小惑星となった。

恒星から適度な距離を保てた結果、適切な温度によってチーズはフォンデュ状態となり、チーズの液体は絶えず星を循環した。チーズは有機物の塊、まさに生命のスープである。


程なく、新たな生命が誕生した―――

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