"約束"オブザデッド
「食器を洗う」タスクがゾンビになった。追われ追われて辿り着いたこのショッピングモールに住み着いてもう二カ月が経っただろうか。僕の他には誰もいない。
自宅にいたころ、使い終わった食器をシンクに入れっぱなしにしてひと月ほど放置していた。台所が狭くて使いにくいけれどめんどくささが先行した。色々とやりたいことがあるからしょうがない。
仕方なく僕はカップラーメンを食べ始めた。そうすれば食器を使うこともない。すると今度はゴミが溜まり始めた。
「ごみを捨てる」ゾンビもこのショッピングモールまで追いかけて来たようだ。気づいたらモールは多くのゾンビに囲まれていた。「洗濯機回す」ゾンビ、「掃除機かける」ゾンビ、「マンガを棚に戻す」ゾンビ。
ゾンビなんていくらでも無視すればいい。このモールでは好きなだけぐうたらできる。ご飯を食べても食器を置く場所はいくらでもあるし、洋服が汚れてきたら新しい服を商品ラックから取ってくればいい。広いからごみに埋め尽くされる心配もない。
さあ、色んな事をしよう。僕にはやりたいことがたくさんあるはずだ。マンガを読んだり、映画を見たり、ゲームをしたり。なのにおかしい。一向に気分がすっきりしない。毎日楽して生きているはずなのに、マンガの内容が全然頭に入ってこない。映画を2時間もじっと座って見ていられない。ゲームをしていて少しでも失敗したらイライラしてしまう。
彼ら(と呼ぶべきか)がゾンビとして存在している理由はもちろん僕にある。どんなに忘れようとしても、彼らは死ぬことなく脳の片隅に留まり、永遠に思考の隅を闊歩し続ける。
ガラス窓に反射する自分の顔を見た。全く張りがない青白い顔をしていた。もしかしたらゾンビたちよりも僕の方が死人に見えるのかもしれない、と思った。
このゾンビたちを倒すためにはチェーンソーも芝刈り機もゴルフクラブもいらない。説明は不要だろう。
長きにわたる戦いに終止符を打った僕は、ショッピングモールを後にした。
家に帰り、真に生き生きとした毎日を送っていたある日、ポストに同窓会の案内はがきが投函されていた。その瞬間死んでいたはずのゾンビが頭の墓から蘇る。
「古い友人に謝罪する」ゾンビ。倒すのにてこずりそうだ。
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