【性善説】裸の王様
俺の話を聞いてくれ。信じてもらえないかもしれないが、誰かに話したい。
この国から東の方にずっと行った先に変な国があってな。その国の奴らはみんな、裸で暮らしてるんだ。
でもな、これが見る人にとっては、それはそれは美しいきれいな服を着ている、っていう風に見えるらしいんだ。そして実際、その国の産業は布や服の商いでなりたってるって話だからおかしいよな。
聞くには、ある日その国の王様の下に商い人がやってきて、「悪い奴には見えない布」というものを売ったそうだ。王様はその布を気に入って、自分が身につける服に使っただけではなく、国民の皆に無償で配ったんだ。その後に商い人も雇って、作り方も広く国民にだけ教えたんだと。
結果、その国では「悪い奴には見えない布」の服が一番の産業になり、儲かって豊かな国になったみたいなんだ。
なんでそんなに詳しいのかって?
いやまあ……要するに俺はその国出身なんだよ。その布で作られた服が配られた日もそこにいた。
でもよ、どうしても俺には何も見えなかった。誰に何を聞いても「綺麗な服だ」としか言われなくてよ。王様を囲んでパレードが行われたときなんて、俺からしたら裸祭りだ。思わず叫んだよ。
「王様はなんにも着てやしないじゃないか!裸の王様だ!」
その瞬間、王様に仕える兵隊(全員裸の兵隊だった)に捕まって、俺は追い出されたんだ。そうして今に至るってわけさ。
俺からしたら、あんな国おさらばできてせいせいしてるよ。でも気がかりなのは、あの話が本当だったのかってことだ。国が儲かってるって話を聞いてから、どうにも俺の方が実はおかしかったんじゃないか、俺は「悪い奴」だったんじゃないか、って不安が消えなくてよ……。
お前、今度一緒に見に行ってくれないか?
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