第117回『すいている』→落選

 あーあ、行っちゃった……。

 朝の八時三分。次の電車だと、駅から走らないと学校に遅刻しちゃう。

 秋風吹く季節になったとはいえ、日差しはまだ暑い。これじゃあ、学校に着く頃にブラウスが汗まみれになるのは確定。今日は夏服を着てきちゃったから、ブラが透けたらどうしよう。

 なんで私、乗り過ごしちゃったんだろう……。

 下を向いてうだうだしていると次の電車がやってきた。

 へぇ、一本後の電車って意外と混んでないのね。反対側のシートに座る人が見える——って、えっ、彼ってこの電車に乗ってるの?

 隣のクラスの学級委員長で和紙部のキャプテン。

 シートに深く腰掛け、本を読んでいる。

 私はそろそろと近づき、彼の前のつり革につかまった。

 なんていう本を読んでいるんだろう……?

 あっ、目が合っちゃった。うわっ、胸がドキドキしてる。

 電車が減速し始めると彼は静かに本を閉じた。

 チラリと見えたそのタイトルは、『SWEET TAIL』。

 さあ、学校までのダッシュ競争は、抜かされてもちゃんとついていかなくちゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る