第116回『シェルター』→逆選王☆☆

「ママ、僕はね、あのテントウムシのがいい!」

 息子の塩斗が、妻にねだるように赤いシェルターを指さす。

「じゃあ、海妙ちゃんはどれがいい?」

「しーたはね、あの貝のがいい!」

 海妙が指さしたのは、その隣の白いシェルターだった。

 俺達家族は今、ホームセンターに来ている。原発周辺の住民には、国の援助で避難用シェルターが無料で提供されることになったからだ。シェルターには、放射性物質が降り注いでも四人家族が一週間暮らせる機能が付いている。

「えー、貝の形なんて嫌だよ」

 塩斗が口を尖らせると、海妙も負けじと反論した。

「そるとにいちゃんのいじわる。しーたはぜったい、貝がいいんだから」

「海妙はなんでもかんでも貝じゃないか。ここは僕に選ばせてよ」

「貝、貝、貝、貝! 貝じゃなきゃぜったいいやっ!」

 すると困った妻が、海妙をなだめるように口を開いた。

「海妙ちゃんは本当に貝が好きなのね。じゃあ、今度生まれてくる弟の名前に貝を付けてあげるから、今回はお兄ちゃんのテントウムシで我慢して?」

 貝太。

 妻が考えているのは、きっとまたそんな名前に違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る